授業における「こんな三流大学に入って,この先の人生は終わったようなものだ。」「一生懸命勉強してこの大学に入学した学生は,なおさら人間のカスである。」等との発言を認定した上で、解雇を有効とした事案(東京地判平成25年2月14日)

主文

 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
 
事実及び理由

第1 請求
 1 原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあり,被告が設置するY大学の法学部法律学科教授の地位にあることを確認する。
 2 被告は,原告に対し,平成22年10月から本判決確定の日まで,毎月22日限り月額54万7562円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
 3 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成22年12月16日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 本件の要旨
 本件は,被告に雇用され法学部法律学科の教授であった原告が,被告の行った配転命令及び解雇が無効であるとして,? 法学部法律学科教授としての労働契約上の地位確認を求めるとともに,? 被告に対し,民法536条2項に基づく平成22年10月分以降の賃金(月額54万7562円)と各支払期日(毎月末締め当月22日払い)の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延利息の支払,? 上記配転命令及び解雇並びにこれらに伴う種々の被告関係者の行為が不法行為に該当すると主張して慰謝料100万円とその旨の訴え変更申立書が送達された日(同年12月15日)の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延利息の支払を求めている事案である。
2 前提事実
 以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨に照らして容易に認定することができる。
(1) 当事者
 被告は,Y大学及び同大学院ほかを経営する学校法人である。
 原告は,特許庁の審判長等を経た後,知的財産法を主たる研究対象とし,平成20年3月31日までa大学大学院b研究科(法科大学院)教授として稼働していた者である。
(2) 労働契約等の締結(甲74,乙3,57)
 原告は,平成20年4月1日,被告との間で,次のとおり,期間の定めのない労働契約を締結した(以下「本件労働契約」という。)。
 ア 勤務場所 Y大学八王子校舎
 イ 職位 教授
 ウ 出校日 週3日(6コマ)+会議日
 エ 年俸 650万円(毎月末締め,当月22日払い)
 オ 研究室 あり
 カ 研究費 あり
 キ 交通費 支給
(3) 調査委員会の開催(甲5の1・2,9,乙26)
 被告は,平成22年6月4日付け「調査委員会設置のご連絡と同調査への出頭指示書」(以下「出頭指示書」という。)をもって,「原告に関する諸問題」について調査委員会を設け,調査することにしたので,必ず出頭されたい旨を通知し(同指示書には,「尚,期日に出頭しなかったことにより貴職が被る不利益は,全て貴職の責任となることを申し添えます。」との記載がある。),同月14日,原告に対する調査委員会を開催した(以下「本件調査委員会」という。)。
(4) 配転命令(甲3,15ないし18,乙29,31ないし33)
 被告は,平成22年6月21日付け「出校指示書」(以下「第1出校指示書」という。)により,「調査の結果を踏まえて,今後の貴職の処遇についてお話いたしますので下記により必ずご出席ください。」との文面により,原告に対して同月24日に八王子校舎への出校を指示したが,原告は,その日は病院を予約済みであるとして出校しなかった。
 その上で,被告は,被告八王子校舎就業規則(以下,単に「就業規則」という。)31条に基づき,「平成22年6月24日付でY大学法学部法律学科教授を免じ,Y大学学長付教授を命ずる。」との配転命令を同月25日付けで行った(以下「本件配転命令」という。)。その条件は,以下のとおりであった。
 ? 個人研究費及び研究旅費は支給しない。
 ? X研究室(本館10階)は大学管理とする。
 なお,入室の必要がある場合は,その都度,学長の承認を得ること。
 ? 各種委員会委員を免ずる。
(5) 解雇(甲10)
 被告は,原告に対し,平成22年6月24日の出校指示に反して原告が出校しなかった根拠が合理的な理由に基づくものか否かを判断するために必要であるとして,同月25日付けで,原告が同月24日に受診したという病院の受診予約票や診断書の提出を求めるとともに,同日付け「出校指示書」(以下「第2出校指示書」という。)により,再度,原告に対して同年7月6日に八王子校舎への出校を指示をしたが,原告は,上記資料を提出せず,また,特に被告に対して欠席の旨を連絡することもなく,出校しなかった。
 その上で,被告は,平成22年8月10日付け「解雇通知書」(以下「本件解雇通知書」という。)により,原告に対し,就業規則43条1項(2)に基づき,同年9月18日をもって原告を解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。
(6) 就業規則(抄)(乙3)
 31条 理事長は職務及び教育上の必要に応じ,職員の異動または職種変更を行うことがある。
 32条 職員は前条による異動,職種変更,出向,転籍等を命じられたときは,正当な理由がなければこれを拒むことができない。
 43条 職員が次の各号の1に該当するときは30日前に予告するか30日分の平均賃金を支給して解雇することができる。
  (1) 心身の障害により職務の遂行に支障がありまたはこれに耐えられないと認められたとき。
  (2) 前号に規定する場合のほか,その職務に必要な適格性を欠く場合。(以下略)
(7) 労働局長の助言・指導の申出(甲19)
 原告は,平成22年6月28日,東京労働局長に対し,本件配転命令を取り消すよう適切な指導を求める旨の助言・指導の手続の申出をし,同期日は一旦同年7月13日に設定されたが,被告の延期申請により,同月21日に変更となった。
(8) 労働審判手続の申立て(甲22の1ないし22の3)
 原告は,平成22年7月5日,東京地方裁判所に対し,本件配転命令の撤回等を求める旨の労働審判手続を本人申立てにより行い(同裁判所平成22年(労)第534号),第1回期日は同年8月11日に指定された。
(9) 地位保全仮処分の申立て及び本訴提起
 原告は,平成22年9月2日,東京地方裁判所に対し,労働契約上の地位の保全等を求める旨の仮処分を申し立て(同裁判所平成22年(ヨ)第21170号),同期日は同月14日に開かれたが,生活困窮等,保全の必要性の問題を指摘され,本案訴訟で争うよう示唆されたことから,同申立てを取り下げ,同月21日,本訴を提起するに至った。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 本件配転命令・本件解雇事由の存否ないし評価
【被告の主張】
ア 本件配転命令の必要性・合理性について
 配転命令は,就業規則上,理事長の権限とされているところ,原告には,以下の(ア)ないし(ケ)のような問題点があり,本件調査委員会の結論が,原告はY大学の教員としては不適格という結論であること,懲罰委員会の実施を求めていることに基づき,被告理事長は,原告を法学部法律学科教授のまま留め置くことはできず,暫定的な措置として,原告を学長直属の管理下に置き,指導・指示命令等を行う職務及び教育上の必要があると判断したのであって,本件配転命令は必要性・合理性があるというべきである。
(ア) ノートテイカーの成績評価に対する態度
 被告では,聴覚障害をもつ学生のサポートとして,学生がボランティアで筆記通訳を行っており,担当教員には,この学生に対し学期末にボランティア実習として評価するよう依頼しているところ,原告は,平成21年の春期定期試験直前,授業の時にノートテイクをしているかを確認する余裕はないから単位の認定ができないなどと言い,これを断った。
(イ) 賭けトランプや暴力行為に及んだ学生の懲戒処分に対する言動
 賭けトランプをし,トラブルから暴力行為に及んだ被告の学生ら(9名中6名の担任は原告であった。)に対し,学生部会で審議し学長が決定した無期停学処分(以下「賭けトランプの件」という。)について,平成21年9月11日,被告の学生サポートセンター担当者であるBら対し,当該賭博行為や暴力行為は軽微であり無期停学処分は不当であるなどと批判し,学生や保護者らに電話をして職務上知り得た秘密を漏らすとともに,被告は担任である自分に知らせないで処分をしたなどと公言して被告の秩序を乱した。
(ウ) 他の教員の成績評価に対する言動
 原告は,平成21年10月13日,自分が担任をしている学生がC助教(以下「C助教」という。)の担当する科目(教育経営論)で成績をD評価とされたこと(以下「D評価の件」という。)につき,同学生は他の科目の成績は全て優秀なので,D評価をとるような学生ではなく,何かの間違いではないかなどと介入し,他の学生の成績評価も含めて全て公開せよなどと要求し,圧力をかけた。
(エ) 演習一覧表やゼミの開講条件に関する言動,ガイダンスでの発言
 原告は,平成21年10月30日,法学部のゼミ担当教員が作成した法律学演習一覧表に対し「勝手にそういうものを作られるのは許せない。これは著作権法違反だ。」と言ったり,15名以上の単位修得者がいないとゼミはコマ認定されないことにつきクレームをつけたりした。
 また,原告は,平成21年11月4日,平成22年度法律学演習ガイダンスにおいて,賭けトランプの件につき無期停学処分はおかしいと述べたり,D評価の件につき納得がいかないと述べたり,授業は15回とか決まりがあるがそんなものは一切関係がないと述べたり,ゼミは単位修得者が15名以上いないと教員側にとって正式なコマ数と認定されないことを批判したり,3時限は1時からであるが,自分の授業は12時15分から開始するなどと宣言したりした。
(オ) AO?期入試の面接担当者としての発言
 原告は,平成21年10月31日,AO?期入試の面接試験を担当した際,受験者に聞こえるような状況の下,面接会場において「今日の面接者は馬鹿ばかりだ。」と発言したり,「A評価何人,B評価何人」などと評価を述べたりした。
(カ) 平成21年度秋期,平成22年4月の授業中の発言
 原告は,平成21年度秋期の「法学?」の授業,平成22年4月14日,同月21日,同月28日の「法学?」や「現代法学特講C」の授業で,ここの学生は頭が悪いとか,ここの学生は大学入試で失敗したとか,私が教えていたa大の生徒と比べたら月とスッポンであるとか,お馬鹿さんなどと言って学生を侮辱し,ここに来たことに恥を知りなさいとか,Y大学に入学したことをまず反省すべきだとか,こんな大学を卒業してもよい就職先はないとか,うちの大学院に進む人はダメな人であるなどと言ったり,教授も天下りばかりでレベルが低いとか,民法の先生はレベルが低いから私の持っているDVDを見なさいとか,補講と重なったらそちらを休みなさいなどと言って教員を侮辱したり,Y大学をレベルの低い大学とランク付けするなどして同大学の名誉・信用を毀損したり,Y大学は非常にいい加減で,国会議員の変なおじさんや会社の法務部長をやっていたのが教えていたりするとか,Y大学というところは事実を確かめないでむちゃくちゃをする,学生を馬鹿にしている,この大学は馬鹿みたいだなどと誹謗中傷したりした。
(キ) 授業への苦情申入れに対する事務方の対応相談に対する態度
 原告は,平成22年4月20日及び同月21日,原告の授業に対する学生及び保護者からのクレームに対処するため,D課長補佐(以下「D課長補佐」という。)やE課長(以下「E課長」という。),F事務長(以下「F事務長」という。)が原告にクレームのことを伝えて善後策を話し合おうとしたところ,授業の準備で忙しいから今日は無理である旨を述べただけでなく,自分は教授だ,事務の人からの話は今は聞けないなどと言って全く取り合わなかった。
(ク) 補講の教室を間違えた後の関係者らに対する発言
 原告は,平成22年5月26日の6限の補講の際,割り当てられていたのは1152教室であったにもかかわらず,G教授(以下「G教授」という。)に割り当てられていた1052教室に早くから入って準備をし,そのまま同教室を使用したため(原告も同教室を希望する旨の申込みをしていたが,割当の結果は事前に文書で配布されていた。),先にいた原告を見て入るのを遠慮したG教授及びその学生に迷惑を掛けた。しかも,原告は,G教授に対し,「ろくな授業もやらないで」などと暴言を吐き,D課長補佐に対しては「これは教務の人の間違いだ。君は無礼だ。たかだか職員の分際で。」などと暴言を吐いた。
(ケ) 第1出校指示書に対する対応
 被告は,原告の処遇について話をするため,第1出校指示書により,原告に対して出校指示をしたが,原告は,正式な連絡なく出校しなかった。なお,原告は,学部長に連絡したというが,第1出校指示書は学部長からの指示書ではないため,学部長への連絡では正式な連絡ということはできないし,出校日とされた平成22年6月24日は病院を予約していたというが,裏付け資料の提出を求めても原告がこれに応じなかったので,理事長との話合いを拒否するための便法と評価せざるを得ない。
イ 本件配転命令の条件に関する合理性について
 本件配転命令に付された条件は,以下のとおり合理性があり,その他原告の職務内容,就業場所,賃金等の基本的労働条件に関する変更はないのであって,不利益処分というほどのものではない。
(ア) 個人研究費・研究旅費の不支給を伴う処分であることについて
 本件配転命令により,原告は法学部法律学科の教授ではなくなり,学長付教授としては個人研究費は不要となるから,研究費等を支給しないこととしたものである。なお,原告は既に年間個人研究費の多くを使用済みであり,本件配転命令により支給されなくなるのは,あくまで個人研究費についてであって,授業に要する費用は申請することができる。
(イ) 研究室の管理について
 学長付教授への異動に伴い,それまで法学部法律学科の管理のもとにあった研究室が学長の管理下に置かれることとなったため,研究室に入室する必要があるときは学長の承認を得ることとしたものであり,学長が不在の場合でも事務局を通じて承認を得れば済むことである。もとより,原告は引き続き授業も担当するのであるから,原則として研究室の自由使用が前提であり,現に,原告は,その後も同研究室の鍵を保有したままであって,被告が原告に鍵の返還を求めたことはなかった。
ウ 本件解雇の合理性について
 原告には,上記アで指摘したもののほか,本件配転命令後も以下の(ア)ないし(ウ)のような問題点が発生したのであるから,本件解雇はやむを得ない措置であり,合理性があるというべきである。
(ア) 平成22年6月30日の授業中の発言
 原告は,職員が聴講に来たことを告げると,「だったら授業の邪魔だからもっと後ろに行け。」と言い,学生に対し「大学は,私に嫌がらせをしている。」「教授にも自由というものがある。教育・研究の妨害だ。これは人権侵害に当たる。この大学は嫌がらせをして私を自発的にやめさせようとしている。家に帰って父兄にこういう大学だということをよく話しておいてください。」「あの2人を見なさい。命令されて授業にケチをつけることを探すためにあそこに座っているが,命令されれば何をしてもいいのか。」などと発言したり,学生にも聞こえるような声で,職員に対し,7月6日の出頭要請には応じない旨を宣言したり,H法学部長に関して,リュックを背負って出校日だけ来て,授業が終わったらすぐ帰る。それで法学研究科長をやっているなんておかしい。」などと発言したり,賭けトランプの件やD評価の件,補講の教室を間違えた件についても,持論をもとにコメントをした。
(イ) 各種施設見学等の実施
 学外授業を実施するときは,予めその許可を得る必要があり,学生が履修している他の授業に差し障りのない日程で実施することとし,原則として,月曜日から金曜日までには行わないことや,必要事項を参加者らに示すことが教員便覧に規定されているにもかかわらず,原告はこれを怠った。参加できない生徒がいるにもかかわらず,参加しなければ不利益になるような学外授業を多数回行うことは,学生の立場を考慮しない独善的な授業運営であって,教育熱心とはほど遠いものである。
(ウ) 第2出校指示書に対する対応
 原告は,第1出校指示書のみならず,第2出校指示書にも応じなかったのであり,本件は,こうした原告自らの不誠実な対応により,被告としては,処遇について話合いをすることができないまま,本件解雇通知書の送付をすることとなったものである。
【原告の主張】
ア 本件配転命令の必要性・合理性について
 本件配転命令は,「学長付教授」とする合理的な理由がなく,業務上(教育・研究上)必要性も全くないから,無効というべきである。
 なお,被告が配転事由とする以下の事項は,原告が本件調査委員会で否認した事項,あるいは弁明を聴取されていない事項であって,本件配転命令は,配転事由に該当する事実認定を欠如したまま発令されたものである。
(ア) ノートテイカーの成績評価に対する態度
 原告は,ノートテイカーの成績評価をすることを事前に何も聞いておらず,この件は,春期授業が全て終わってから,突然,被告の事務職員から言われたことであった。なお,原告は,ノートテイカーの成績評価について非協力的な態度を取ったことはなく,障害を持つ履修学生に対しても親切に対応したことから感謝されている。
(イ) 賭けトランプや暴力行為に及んだ学生の懲戒処分に対する言動
 賭けトランプの件は,Y大学の附属高校から進学してきた,入学間もない,未成年の学生複数人が中心となって,学生のアパート等において賭けトランプを数回行い,支払に関して生じたいざこざから喧嘩になり,暴行を受けたとする学生の保護者がY大学にねじ込んできたという事案である。Y大学以外の学生は一切関与しておらず,新聞報道の対象となったことも全くないのであり,同大学の学生が逮捕された過去の事件とは比較にならないものであった。それにもかかわらず,被告は,学部長も学生部長も学生本人と一度も面談することもなく,担任にも一切知らせず,夏季休暇中に無期停学処分とし,奨学金を打ち切るなどの過酷な処罰を行い,当該学生をして退学せざるを得なくさせた。学生サポートセンターの取調べにおいても可視化が全くされておらず,当該学生は,大変怖かった,調書は無理矢理書かされたと原告に話していた。被告は,この処分につき学内で公表せず隠蔽しているのであり,担任教員である原告が事実を究明しようとする行動は,正当な行動である。
(ウ) 他の教員の成績評価に対する言動
 原告は,他の教員の成績評価について不当な介入などしていない。原告は,クラス担任の学生が,原告に対し,C助教の科目だけがD評価とされたことに納得がいかないと必死に訴えてきたので,他の科目の成績は全て優秀であり(1年次の評価は,S評価が20数教科,A評価が10教科),C助教の科目だけD評価をとることは考え難いと思い,C助教に対し事実関係を確認したものである。学生の訴えに答えて当事者に事実を確認することは,担任教師としての正当な行為である。
(エ) 演習一覧表やゼミの開講条件に関する言動,ガイダンスでの発言
 原告は,演習一覧表やゼミの開講条件について,被告主張のようなクレームを発してはいないし,仮にそのような発言があったとしても,それは,配転事由及び解雇事由になるようなことではない。
 また,ガイダンスでの賭けトランプの件に関する発言は,一般学生は何も知らされていなかったことから,原告は,法律学を学ぶ学生ならば「冤罪」「罪刑法定主義」「取調べの可視化」「人権侵害」などの視座から知っておいた方がよいと思ったため,若干言及しただけである。
 さらに,授業回数の件に関する発言は,原告の補講というのは一種の補習授業であり,学生に力をつけさせるため,あるいはモチベーションを高めさせるために行う授業であり,そういう便宜を図っているから,15回だけではないと説明しただけのことである。
 なお,D評価の件やゼミの人数の件,授業開始時刻の件については,被告が指摘するような発言はしてはいない。
(オ) AO?期入試の面接担当者としての発言
 原告は,被告が指摘するような発言をしてはいない。仮にそのような発言をしたのであれば,当然,原告に対して事実の確認や注意等がなされるはずであるが,原告は,被告から何も言われていない。
(カ) 平成21年度秋期,平成22年4月の授業中の発言
 原告が常日頃から授業中に言っていたのは,「努力は人を裏切らない。」「絶対にあきらめない。投げ出さない。」「今からでも間に合う。」「これから,心を入れ替えて勉強をすれば,まだ間に合う。」といった類の学生に対する叱咤激励であり,学生を誹謗中傷して自信を失わせるのとは真逆の励ましの言葉である。原告が学生を馬鹿にするような発言をしていたのであれば,学生アンケートで高い評価を受けることはあり得ない。
 また,卒業生の就職先についても,原告のゼミの卒業生は皆よい就職先に就職しているので,「よい就職先なんかない」などと発言するはずがないし,原告は,永年懇意にしていた知人(元の職場の後輩)を被告の大学院に進学させて熱心に指導を続けているのであるから,被告の大学院に進学する者を馬鹿にするはずはない。
 さらに,原告は,授業の中で,自分の体験を通じて,民法の物権や債権は教える教員によって学生の理解が違うといった趣旨の話をしたことはあるが,Y大学の教員の民法の授業を聴講したことは一度もなく,その授業を批判する発言をしたことはないし,授業専念は原告のポリシーであるから,補講と重なったら授業を休めなどと言うはずはない。
 なお,原告は,a大学時代の話をすることはあったが,同大学の学生との比較でY大学の学生を誹謗中傷するような発言はしていない。
(キ) 授業への苦情申入れに対する事務方の対応相談に対する態度
 原告が,D課長補佐らから話をしたいことがあると言われたのに対して,これに応じることができなかったのは,平成22年4月20日については,同人が横柄な態度をとり,要件の内容を一切告げようとしなかった上,原告は翌日に3コマの講義予定があって,その準備に相当時間を割かなければならなかったからであり,翌21日は,まさに講義のため忙しかったからであって,決して話合いを拒絶したわけではない。
(ク) 補講の教室を間違えた後の関係者らに対する発言
 原告が補講の教室を間違えたのは,原告自身,いつも1052教室を希望することが多く,学校側からもらった紙をよく見ず今回も当然1052教室だと思ってしまったことや,G教授及びその受講生が1人も来ていなかったことが原因である。原告は,G教授に対し「いやそれは申し訳ありませんでした。」とは言っており,ただ,教室で上映していた検察審査会のDVDが進んでいたため,申し訳ないけれども,今更ながらの教室の変更は勘弁していただいたというのが実情である。
 なお,原告のG教授に対する発言については,午後6時半過ぎに教室に来るという許せない授業態度であったことから,多少失礼な言い方をしたことは事実である。
(ケ) 第1出校指示書に対する対応
 原告が第1出校指示書の指示に従うことができなかったのは,呼出日はもともと原告が出校を免除されている木曜日であって,以前から病院の予約をしていたためであり,そのことは,直属の上司である法学部長兼大学院法学研究科長のH(以下「H法学部長」という。)を通じて被告に連絡しているはずである。そもそも,相手の都合も聞かずに一方的に日時を指定しておきながら,出校指示に従わなかったなどというのは,あまりにも独善的な主張である。
イ 本件配転命令の条件に関する合理性について
(ア) 個人研究費・研究旅費の不支給を伴う処分であることについて
 個人研究費・研究旅費を支給しないという条件は,被告が,原告に対し,春期期間中授業を引き続き継続させることと矛盾している。支給しないのであれば,原告は,自らの負担で授業の準備及び研究活動等をしなければならず,その不利益は大きい。
(イ) 研究室の管理について
 研究室に入室する必要があるときは学長の承認を得るなどという条件は,通常考えられないような条件であって,事実上,授業の準備及び研究活動等をさせない,ないしこれを困難にする不当な制約である。
ウ 本件解雇の合理性について
 本件解雇には,合理的な解雇事由がなく,無効というべきである。
 なお,被告が解雇事由とする以下の事項は,原告が本件調査委員会で否認し,あるいは原告の弁明が聴取されていない事項であって,本件解雇は,解雇事由の事実認定が欠如しているか,あるいは誤認定の上でなされたものというべきである。
(ア) 平成22年6月30日の授業中の発言
 そもそも,この日の授業中の発言として被告が提出した書証は,被告の職員が原告の同意なく教室に侵入し,授業内容を盗聴した上で作成したものであって,教員の人格権や教授の自由等を侵害し,社会的相当性を逸脱する手段で収集したものであるから,違法収集証拠に該当するというべきである。しかも,この証拠は,被告が処分を正当化する目的で事務職員に作成させたものであり,事実が歪曲されている。
 原告は,職員が着席していることを発見して退室を求めたものの,上司の指示だからと懇願顔で弁解したので,大変不愉快であったが,授業を優先するため,これ以上の退去を求めなかったのである。
 また,原告は,職員2名に対し,このようなスパイまがいの行為は社会常識に反すると告げたことがある程度である。
(イ) 各種施設見学等の実施
 最高裁判所見学,国立国会図書館見学,東京地方裁判所の裁判傍聴,府中刑務所参観等を行ったことは事実であるが,任意参加でゼミ生等も含まれており,被告の許可を必要とするような学外授業ではなかった。過去に,原告が,被告に対して許可を求める文書を作成したことはあったが,それは,原告が赴任後間もない時期のことであり,本来的には提出する必要のなかったものである。
(ウ) 第2出校指示書に対する対応
 出校指示書の内容は一方的なものであり,対等に話合いをしようという文面ではなく,原告は,この時点で,東京労働局長に対し助言・指導申出をしていたのであって,本件紛争の解決を法的手続に委ねていたため,第2出校指示書の指示に従わなかっただけである。
(2) 本件配転命令・本件解雇の手続的相当性
(略)
(3) 不法行為の成否
(略)
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 本件配転命令・本件解雇事由の存否ないし評価
(1) 認定事実
 証拠(甲82,乙127ないし130,133,証人I,同J,同D,同F,原告本人,被告代表者本人のほか,以下に掲記の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。
ア ノートテイカーの成績評価に対する態度
 原告は,平成21年春期履修登録手続の終了後,被告から「障害者の履修について」と題する書面により,原告の金曜日3時限「知的財産法A」の授業を聴覚障害のある学生が履修しており,ノートテイカーの学生が指定されていること,ノートテイカーの学生については,学期末にボランティアについてのレポートを書かせるか,日頃のノートテイクの状況を見て「ボランティア実習」として評価「N(認定)」をつけることを知らされていたにもかかわらず,成績報告書の配布時,「ノートテイカーの成績評価について」と題する書面により,重ねてその旨が知らされた際,被告の教務グループに,ノートテイク単位認定制度について問い合わせをし,当該制度が多段階の評価のあり得る「知的財産法A」の成績評価ではなく,認定か否かの二者択一である「ボランティア実習」の成績評価であり,また,ノートテイクそのものを確認する方法のみならず,レポートを課す方法もあるにもかかわらず,そのことに理解を示さず,自分は授業の時に一生懸命教えているので,学生テイカーがテイクしているかどうかを確認する余裕などないから単位認定ができない旨を述べ,成績評価を拒絶した。
 (以上,甲5の1ないし5の3,乙6,75,87)
 これに対し,原告は,ノートテイカーの評価について事前に何も聞かされていないと主張するが,明らかに上記2通の書面に反する主張であって,知らなかったとすれば単なる原告の不注意の域を出るものではなく,到底信用することができない。
イ 賭けトランプや暴力行為に及んだ学生の懲戒処分に対する言動
 平成21年9月頃,被告に在籍していた9名の1年生(うち6名は原告が担任をしているクラスの学生)が賭けトランプ等をし,300万円勝ったと主張する学生が出たものの,実際には賭けに負けた学生から37ないし38万円程度を受領した上で,さらに架空の事故を仕立て上げて同学生の母親から金を出させようと企て,虚偽の電話を掛けさせたもののうまくいかず,結局,賭けに負けた学生に対する暴行・脅迫事件等を起こしたという事件が発生した。
 この件につき,原告は,同年9月11日,学生サポートセンターに電話をし,学生の処分について問い合わせた際,指導教員に関してまだ決定していないので電話で学生に対してアポイントを取らないよう指示されて一旦はこれを了解したものの,結局,「なぜ職員に言われたことを守らなければならないのか」と開き直って学生の保護者等に連絡をした。
 また,原告は,同月16日,事実関係を客観的に把握していたわけでないにもかかわらず,同センターに対し「掛け金は1万円くらいでたいしたことはない,誰でもやっていることで許される範囲である」とか,「暴行とはいっているが,聞けばただふざけあって軽く殴った程度であると言っている」とか,「未成年の学生に対して無期停学は厳しすぎる,無期懲役と同じであり足利の冤罪事件と同じである」などと抗議した。
 さらに,原告は,同月25日,同センターにおいてこの件に関する資料を閲覧した際,学生の言い分を聴取した上での処分であるにもかかわらず「未成年者について十分な釈明権を与えないで厳罰に処するということは処罰権の濫用である。」などと言ったり,この事案が裁判員制度対象事件でないことは明らかであるにもかかわらず「本来ならば裁判員制度で量刑を決めるときに一般の裁判員6名を選んで,それで適正な処罰になるように慎重にやっている。」などと言ったり,利益を図る目的が認められれば構成要件該当性が認められる可能性があるにもかかわらず「賭博開帳なんてちょっと,自分の学生に対して大げさです。」などと言ったり,後に,原告自身,自らの授業において,自分が法律の専門家ではないと公言しているにもかかわらず「私は法律学者です,はっきり言って,裁判やられたら,これ大学が負けます。」などと言ったり,喧嘩に至る経緯が本質的な問題であるにもかかわらず,その点を捨象して「18や19の学生だったら時にはとっくみあいの喧嘩くらいだってしますよ。」などと言ったりして,約1時間にわたって抗議をした。
 (以上,甲5の1ないし5の3,乙7の1ないし7の3,87,105ないし116)
 これに対し,原告は,被告がこの処分につき学内で公表せず隠蔽していることから,事実を究明しようとすることは担任として正当な行動であると主張するが,処分対象者たる未成年者自身のプライバシーや将来にもかかわる事柄である以上,公表の当否については賛否両論あり得るところであるし,上記認定にかかる原告の発言の大半は,処分量定の相当性に関する抗議であるところ,そのような抗議が事実の究明に出たものとは到底認められないから,所論を採用することはできない。
ウ 他の教員の成績評価に対する言動
 原告は,平成21年10月13日,自分が担任をしている学生(1年生秋期終了時点で,最高のS評価20科目,これに次ぐA評価10科目をとっていた学生)が,C助教の担当する教育経営論Aで不合格となるD評価とされたことにつき,C助教に対し,その理由を質問し,また,「同学生はまじめであり,D評価をとるような学生ではなく,何かの間違いではないか,成績をいい加減につけているのではないか。」「他の授業でAやSをとっているのに,C先生の授業だけDであるのは,どう考えてもおかしい。よく出席していない学生がAをとっていると聞いた。C先生の授業のやり方がおかしいのではないか。親が納得がいかないと言っている。来るかもしれない。」などと抗議をした。
 また,原告は,同月14日,C助教に対し,「全ての学生の成績を公開するよう請求し確かめても大丈夫か。私が納得すれば学生も納得する。他の不真面目な学生がAをとっている。こんな事でいいのか。」などと改めて抗議した。
 (以上,甲5の1ないし5の3,52,乙8の1・2,87,88)
 これに対し,原告は,学生の訴えに答えて当事者に事実を確認することは担任教師としての正当な行為であると主張するが,上記認定のように,他の教員の行った学生の成績評価,しかも原告とは全く専門分野の異なる科目について行った成績評価の仕方に介入するかのような抗議を行うことは,当該教員の専門的学術研究活動に対する侮辱を伴う過剰な干渉以外の何ものでもなく,不当な行為であることは明らかであるから,所論を採用することはできない。
エ 演習一覧表やゼミの開講条件に関する言動,ガイダンスでの発言
 原告は,平成21年10月30日,法律学演習の内容を各教員につき2行ずつにまとめた法律学演習一覧表を法学部のゼミ担当教員が作成し,原告の演習内容につき「パワーポイント報告,知財判決の分析,知財模擬裁判,裁判や審判の傍聴,学外セミナーへの参加など」と記載した件に関し,「私は一度も聞かれた覚えもないし,私の演習の内容と全然違う。私はああいうものは一語一句精査して書くんだ。だから勝手にそういうものを作られるのは許せない。これは著作権法違反だ。」とか,15名以上の単位修得者がいないとゼミはコマ認定されないことにつき「そもそもこの条件自体おかしい。こんな条件にしたら自分の保身のために単位を与える先生が増えるじゃないか。そもそも演習なんてそんな簡単に何人も単位を与えられる教科じゃないはずだ。まじめにやったら15人もいくはずがない。私もたまに他の先生の授業を見かけるが,まじめにやっていない先生も何人かいる。」等と抗議した。
 また,原告は,平成21年11月4日,平成22年度法律学演習ガイダンスにおいて「ここの大学は大学や不真面目な学生がまじめな学生の足を引っ張ることが多い。」「例えば,私が担任をしている学生が寮でトランプをしていただけで無期停学にさせられた。賭け事なら賭博罪などにもなるが,トランプをしていただけで無期停学にするのはおかしい。」「私はこのY大学から抜け出したいと思うことが多々ある。例えば私の教えている学生で非常にまじめでコツコツやる学生がいて,ほとんどの評価でAをとっているが,1科目だけDをとった科目があって私の所へ相談が来た。Dをとるような学生ではないので私も納得いかなく,そのDをつけた先生,法学部の先生ではないのだが,その先生の所へ電話をした。そうしたら自分が人間違えをして成績をつけたことを認めないで,学生の提出したレポートの論点がずれているとか訳の分からないことを言い出す。そんな先生もいる。」「この学校はゼミは単位修得者が15名以上いないと授業として成立しないとか訳の分からない決まりがあるようだが,私はそんなことは関係ない。1人でも2人でもやる気のある学生だけを伸ばせればそれでいい。」「私の授業はとにかく厳しい。3限は12時15分から開始をする。実際に見に来ても構わない。演習には夏休みもない。授業回数が15回とか決まりがあるがそんなものは一切関係ない。」など発言した。
 (以上,甲5の1ないし5の3,乙9の1ないし9の3,87)
 これに対し,原告は,賭けトランプの件につき,法律学を学ぶ学生であれば知っておいた方がよい冤罪等の視座を提供しただけであると主張するが,限られた時間で各ゼミの紹介をすることが目的のガイダンスという場において,賭けトランプの件を学生に紹介した上で学校批判をすることは,明らかに原告主張の教育的見地とは別の目的に出たものと評価せざるを得ないのであって,所論は失当である。また,D評価の件等については,原告は発言していないと主張するが,上記認定にかかる発言の具体性や,実際に原告自身がそのような思いを抱いていたことが事実であることに照らすと,所論を採用することはできない。
オ AOⅡ期入試の面接担当者としての発言
 原告は,平成21年10月31日,AOⅡ期入試文系の面接試験を担当した際,3m間隔で並ぶ隣のブースでまだ面接が行われていたにもかかわらず,自分の面接が終了した時点で,面接会場において「今日の面接者は馬鹿ばかりだ。」と発言したり,本来,面接試験者は成績に関する評価を口にしてはならないにもかかわらず,廊下に出てからも「A評価何人,B評価何人」と言ったりした。
 (以上,甲5の1ないし5の3,乙10,87,101)
 これに対し,原告は,実際に被告から注意を受けていないことを根拠に当該発言の存在そのものを否認しているが,上記認定にかかる原告の発言内容は,実際に報告書の形で被告理事長に伝えられていることが認められるのであり(乙10),被告において,当時,単に別個独立の処分対象とはしなかっただけであるというほかない。
カ 平成21年度秋期,平成22年4月の授業中の発言
 (ア) 平成22年4月14日3時限の「法学Ⅰ」の授業において,原告が「Y大学に入学をするなんて,馬鹿な学生だ。」「三流のY大学に入っても就職先はない。あったとしても,ろくな企業ではない。」「a大学の学生とは比較にもならない。」「こんな三流大学に入学したものは,人間のカスだ。」「一生懸命勉強してこの大学に入学した学生は,なおさら人間のカスである。」「こんな三流大学に入って,この先の人生は終わったようなものだ。」などと発言し,これに憤慨した半数以上の学生が,授業中であるにもかかわらず,退出していったという出来事があった。
 (イ) 同月21日2時限の「法学Ⅰ」の授業において,原告が「今は普通に頑張っていれば,慶應大学明治大学に入れる時代。そんな時代の中,君たちはY大学に入ったことをまず反省すべきだ。だが,今から私の授業を受け,真面目にやればまだ間に合う。本気で勉強をしなさい。もちろん私の授業を受けるなら,サークルやアルバイトは禁止。」「この大学を出ても進路はない。だから資格,英検2級以上を絶対とりなさい。お金がないなんて絶対許さない。この教室にいる人ぐらいなら,私がお金を出してやるから全員受けなさい。これは強制だ。」と発言したり,それを聞いて教室から出て行こうとした学生に対して「勝手に出て行くやつは話にならない。そんなやつはどこ行ってもダメだ。一生そうやって逃げていればいい。」と言ったりし,当初50名ほどいた受講者が,途中からは30名弱になるという出来事があった。
 (ウ) 同じ授業又は同月21日3時限の「法学Ⅰ」の授業において,原告が「遠くから通学している学生も居るようだが,なぜこんなレベルの低い大学に通っているのか。2時間以上もかけて通う意味なんかない。もっと近くによい大学があっただろう。」「私はa大学の大学院で教えていたんだから,本来,君たちは私の講義を受ける資格なんてないんだよ。」などと発言したところ,教室がざわつき,10ないし20名くらいの学生が教室から出て行ったという出来事があった。
 (エ) 同月28日2時限の「法学Ⅰ」の授業において,原告が「この大学は見栄を張ってですね,TOEICの講座を設けています。本当はですね,英検の講座を設けた方がいい。」と発言し,また,5月12日について「6限は休まないでくださいよ,6限は休まない。2限は休んでも構いません。2限はやりますけれども,復習をやりますから休んで勉強していても構わない。6限は休まないでくださいね。ここは,ちょっとね,レベルの低い人はね,こういうことは本当は言いたくないんだけど,数が多いんですよ。ですから,だんだんそういう風に流されちゃっていく人が多いんでね。」と発言した。
 (オ) 同日3時限の「法学Ⅰ」の授業において,原告が「英検は,事情がない人はとにかく全員受験してください。経済的な事情で受けられないという人は,私が払います,受験料を私が払いますから来てください。」「自分は入試に失敗してY大学に入っちゃったと。非常にがっかりしたんだけれども,Y大学に行ったら非常に良い先生がおってやる気を起こしてやったら,要するに自分も生まれ変わったつもりでこういうふうに勉強してね,英検は準1級まで取った,TOEICは730点も取ったし,一応短期留学だけどヨーロッパの方に留学したりしたと。また,ボランティア活動をやったとかね,いろいろなことを書くと良い。採用する人はね,ちょっと偏差値の低い大学だけど,その後非常に勉強して将来性があるな,こういうふうに判断してもらわなきゃ採ってもらえないんですよ。」「5月12日には,中間試験を6限にします。向こうの部屋ですね,1042でやります。それで,この3限の法学では,ちょっと復習をやります。あるいは,自習でも構いません。あるいは,DVDか何かをやるかもしれません。これは,出ても,出なくてもいいです。6限の方は必ず出てください。それは正規の中間試験なので,そこは,特別な事情がない限り出ないと成績が悪くなります。どうするかの選択は,自分で判断してください。今,皆さん方は遅れて居るんだ,言っちゃ悪いんだけどね。ここから追っかけていかなきゃいけないから,とにかく1年でずっと早慶の人を追い抜くぐらいのつもりでやらないとですね。」と発言した。
 (カ) 同日5時限の「現代法学特講C」の授業において,原告が「今,就職は厳しいから,競争相手というのは,Y大学のおばかさんじゃないんだ,そんなのは競争相手じゃないんだ。皆さん方が競争するのは,慶應の人とか早稲田の人とかね,ちょっと落ちてもJの人とかCの人とかね,そんなような人と競争するわけだ。だから,T大学とかS大学とかそんなような人が競争相手になっているようじゃあいいところにいけるわけがないんですよ。」「就活の自己PRに書く内容としては,自分は大学入試に失敗してここに来ちゃった,悔しいと。しかし,来てみたら,X先生のようないい先生が居ることが分かってモチベーションが高まったから,生まれ変わってとにかく頑張って自分の目的を達したい,そういう方が結構いらっしゃる。大学入試は失敗してY大学の法学部に入学したとかね,高校時代は勉強を怠けてY大学になっちゃったとかですね。とかいうようなことを書けばよい。」「私は法律の専門家ではない,もともとはね,知的財産法はやっているんですけれども,法の専門家ではないしね。普通のちゃんとした大学だったら,私が法学の基礎なんか教えるというのは本来おかしいんですよ。本当の研究者でね,法律の専門家が教えるべきなんだ。ところが,ここは非常にいいかげんで,何か国会議員をやっていた変なおじさんが教えていたり,会社の法務部長をやっていたのが教えていたりとかね。本来そんな人は大学の学問や大学院で教えることなんかない。そんなのはね,私が教えていたa大学なんかね,そんなことは絶対ないんですよ。」「くどいようで失礼だけど,皆さん方は大学入試で失敗したんだから。二度と失敗しちゃだめだから。今の失敗を繰り返さない。就活の時とかその後の失敗とかだんだん大きくなっていってしまうんだから。」「5月12日は,この5限は,ここで今までの復習とかそのほかの自習でもいい。やって,6限に1042,こちらで3クラス一緒にやります。同じ試験内容でやりますので,ばらばらにやっていて問題が流れ出るしね,効率も悪いのでね,一応今回は一緒に3クラスやります。ですから,5限の方は休んで構わないんですけれども,6限の方は休まない。休むと成績が悪くなる。」「個人面接は,5月1日,1限,2限に授業をやって,3限以降は一応空けているんです。午後も個人面接をします。保護者が同伴してもいい。もちろん自分だけでも構いませんけれども。保護者の熱心な人は子供も頑張る。親がほったらかしにしているのは,全然だめ。ちゃんとした親だったらね,幾ら悪いといったって,法学部だったらR,G,Aあたりに入れるね。」「Y大学というところは,前にも言ったでしょ。事実を確かめないでむちゃくちゃする。ここの大学は学生にはむちゃくちゃ強いんです。学生を馬鹿にしているんだ,はっきり言って。それで,学生が文句を言っても,まず適当にあしらう。ところがね,親が文句を言ってくるとね,大学はピリピリするんだ,ここの大学は。馬鹿みたいだよ。事実を調べようとしないでね,無理矢理調書を書かされて。それで学生部長というのは法学部の先生がやっている。それも,何も調べない。それで,学長の名前で聴取して処罰している。全然事実を調べないでね。けしからん。学生サポートへ私は怒鳴りこんだ。ふざけてる。賭けトランプしていたというだけで無期停学だ。また,コツッと殴っただけで,それが暴力だって言って,2か月停学だ。やった行為と処罰は均衡していなければならない。中国で日本人が薬物犯罪で死刑になったのと同じだ。」などと発言した。
 (以上,甲5の1ないし5の3,14の1,乙11ないし13,15ないし19,75,87,101)
 これに対し,原告は,学生に対する叱咤激励はしたものの,上記認定事実に係る発言はそのほとんどについて存在せず,ねつ造である旨を主張する。確かに,上記認定のとおり,叱咤激励と見ることができなくはない発言も一部あると認めることができるが,他方,本件調査委員会における原告の弁解は,そのような言い方はしていないなどと細かなニュアンスを否定する部分が大半であって,全体としてみると,学生を馬鹿にしたり,他の教職員を批判したり,被告に対する不満を述べたり,a大学の場合と比較したり,自分の授業ですら休んでも構わないものがあると言ったり,賭けトランプの件に関する発言をしたりしていたことも多々あることが認められるのであり,また,同様の発言が他の講義時やゼミのガイダンス時などにもあったことに照らすと,上記発言はなかったとする原告の主張は,到底採用することができない。

キ 授業への苦情申入れに対する事務方の対応相談に対する態度
 平成22年4月20日午後6時頃,原告の授業に対する学生からのクレームにつき,D課長補佐が原告に対して電話を掛け「お話したい件があるので来てほしい。」旨を伝えたところ,原告は「明日の授業の準備があるので今は行くことができない。」旨を述べたことから,D課長補佐が「それならば帰りに寄ってください。」と言ったところ,原告は「7時35分のバスに乗らなければならないので寄れるかどうかわからない。」と答えた。これに対し,D課長補佐が「本日が難しいならば明日の授業前に来てください。」と言ったところ,原告は「準備の状況によるので時間がとれないかもしれない。明日も時間がとれないかもしれない。」などと述べ,自分の本来の予定を優先する一方で,煩わしさからか相談自体を避けるかのような受け答えに終始した。
 同日午後7時20分頃,状況を確認するため,D課長補佐が原告に電話を掛けたところ,原告からは「今日は無理です。」との回答であったため,「では明日の授業前にお願いします。」と伝えたところ,原告は「明日も時間がとれるか分からない。」「今日は6時限目まで授業があるので無理。昼休みも授業をやるので無理。」などと,やはり相談自体を避けるかのような受け答えをした。
 同月21日午前10時頃,D課長補佐は,原告の研究室に行き,伝えておきたい件があるので3階まで来てほしいと行ったが,「授業の準備が忙しいので今日は無理です。」との返答であったため,D課長補佐が「事務長が話をしたいと言っているので来てほしい。」と言ったところ,原告は「事務長でも誰でも無理なものは無理,話があるなら用件は何か。」と尋ねたため「授業の件である。」と答えたところ,原告が「私は教授だ。事務の人と話なんてない。伝えたいことがあるなら紙に書いてメールボックスに入れてくれればいい。」と居丈高な態度で答えた。
 同日午前10時15分頃,F事務長,E課長及びD課長補佐が原告の研究室へ赴き,E課長より「先生に授業の件で話があるが今いいですか。」と言ったところ,原告が「授業の準備で忙しいので今日は無理です。」と答えたことから,その授業についての話なので授業前に話をしたい旨を伝えたところ,原告は「私は授業を一生懸命やっているし,そのための準備で時間が無い,妨害をしないでほしい。」「授業の件で話があるならこれからやる授業に来たらいい。自分は教授だ,事務の人からの話は今は聞けない,命令権者である学長に言われるなら別である。」と答えた。
 (以上,乙14,101)
 これに対し,原告はD課長補佐が横柄な態度をとったからとか,まさに授業の準備のために忙しかったのであって決して話合いを拒絶したわけではないなどと弁解するが,前者については,本件全証拠によってもD課長補佐に特段横柄な態度は見受けられず,むしろ,原告の方がよほど横柄な態度であることが認められるのであり,また,後者については,仮に話合いを拒絶したわけではないのであれば,後日,空き時間ができた時点で,原告から事務方に対して話合いを持ちかけてしかるべきであったというべきところ,本件全証拠によっても,原告がそのような行動に出たことは認められないのであり,結局,いずれの弁解も採用することができない。
ク 補講の教室を間違えた後の関係者らに対する発言
 原告は,平成22年5月26日の6限(午後6時15分から午後7時45分)に補講を実施することとし,同月21日に1042教室又は1052教室の利用を希望して事前に手続を取ったが,1052教室はそれより前の同月12日に利用申込みをしていたG教授に割り当てられていたこと等から,原告には1152教室が割り当てられることとなり,その旨を記載したプリントは原告のメールボックスに入れられていた。
 ところが,原告は,上記プリントをよく確認することなく,同月26日の午後6時前後頃,普段補講で使用することが多かったという1052教室に赴いて検察審査会に関するDVDの準備を始め,学生も相当数が教室に入るに至った。こうした経緯で,G教授が同日午後6時15分過ぎに1052教室に赴いた際には,原告が既に授業を始めていた。
 そのため,G教授は,教務グループに赴き,教室の割当を再確認したところ,やはり1052教室の割当は自分であったことから,再び同教室に戻り,教室に入って原告に対し部屋の割当を確認した。しかし,原告は,自分がこの教室を予約した旨を述べたことから,G教授は,教務グループに電話をし,同日午後6時半頃,D課長補佐を交えて,原告との間で教室の割当を再確認することとなった。
 その結果,原告は,当初「そんなはずはない。私は1052教室で申し込んだのだから間違っていない。」と主張していたものの,G教授が「この通り間違っているのはあなたなんだから,まずは謝りなさい。」と言ったところ,原告は,一応,すいませんでしたとは述べたものの,今度は「私は1052教室か1042教室で申し込んでいて,何も連絡が来なかったんだからその通りだと思っていた。これは教務の人の間違いだ。」と言ったため,D課長補佐が,原告に対し,補講教室の割当を印字したプリントを示して「このような紙をメールボックスに入れて連絡していますけれども,ご覧になっていないんですか」と質問した。しかし,原告は,「こんなの見るわけない。とにかく私は聞いていない。間違っていない。」と言い張り,G教授が「これからここで私の補講をやるのだから,とにかくやめてください。」と言ったのに対し,「ここには私の授業の学生しかいない」と言い,D課長補佐が実際に確認したところ,反応がなかったのを見て,学生らに聞こえるように「いる訳がない。教務の人が間違ったんだ。そのために授業を中断させられて,いい迷惑だ。」と言った。
 その後,教室の外に出たD課長補佐が,原告に対し「我々教務の方は全然間違っていないじゃないですか。間違っているのは先生ですよ。」と主張したところ,原告が「君は無礼だ。たかだか職員の分際で。この間もそうだったが,先生に対して大変無礼だ。そんな職員は見たこともない。前任校にもいなかった。」と言い,G教授が「何を言っているんだ。Dさんのやっていることは全くもって正当な職務行為じゃないですか。」と言ったのに対し,原告が「大体あなたが時間に遅れてくるのが悪いんだ。ろくな授業もやらないで。」と言い,G教授が「あなたにそんなこと言われる筋合いはないでしょう。」と反論したのに対し,原告が「私はこんなに一生懸命授業をやっている。ろくな授業もやらない人とは違いますよ。」と更に反論するというやりとりがあった。
 (以上,甲5の1ないし5の3,8,41,乙1,22,23,24の1ないし24の3,75,87)
 これに対し,原告は,自分の勘違いが原因であったことは認めた上で,DVDが進んでいたことから教室の変更を勘弁していただいたというのが実情であると主張するが,上記認定にかかる口論の経緯から明らかなように,到底,勘弁いただいたなどという低姿勢なやりとりではなかったことが認められるのであって,所論は失当である。なお,原告が,G教授に対して多少失礼な物言いをしたのは,午後6時半過ぎに教室に来るという授業態度が許せなかったからであると原告は主張するが,上記認定のとおり,G教授が1052教室内に入り,原告にその存在を認識されたのが午後6時半前後であったとしても,G教授は,6限の正規の開始時刻である午後6時15分前後に一度1052教室前まで来ており,その時点で原告が既に同教室で授業をしていたことから,自分が勘違いしたのかもしれないと考えて,Y大学の広い八王子キャンパス内を歩いて教務グループまで問い合わせに赴き,再確認の後に同教室前に戻り,同教室内に入った結果が午後6時半前後だったのであって,この点でも原告は勘違いをし,その勘違いをもとに,G教授に対して失礼な物言いをしたことになる。このように,原告の早合点を伴う強気な言動は,賭けトランプの件に関する資料閲覧前の言動でもそうであったように,周囲の者に多大な困惑や不快感を与えることがままあったものと評せざるを得ない。
ケ 第1出校指示書に対する対応
 被告は,原告の処遇について原告に話をするため,平成22年6月21日付けで,原告が授業を受け持っていない木曜日である同月24日午後3時30分にY大学八王子校舎に出校するよう,第1出校指示書を送付し,原告は,同指示書を同月22日に受領したが,同月24日は木曜日であり,出校しなくてよい曜日であった上,午後2時半から東急病院において診察を受ける予約をしていたため,そのような理由により出校できない旨の書面をH法学部長のメールボックスに入れ,同日,出校しなかった。
 これに対し,被告は,同月25日,原告主張の病院予約について,受診予約票と同日受診した際の診断書の提出を原告に要求したが,原告は,その提出に応じなかった。なお,原告は,同月24日,実際に東急病院泌尿器科を受診しており,その旨の外来領収書が存在する。
 (以上,甲5の1ないし5の3,6の1,15,18,乙29,30,37の1・2,87)
 これに対し,原告は,H法学部長に連絡済みである旨を主張するが,第1出校指示書の発信者は被告理事長であって,本件全証拠によっても,H法学部長がこの呼出があったことを当時知っていたことを窺い知ることができない以上,同人のメールボックスに原告が入れたという書面をH法学部長が目にしたとしても,それが第1出校指示書に関することであって,直ちに被告理事長に伝えなければならないものであると認識することができていたかどうかについては,若干の疑問なしとしない。
コ 平成22年6月30日の授業中の発言
 平成22年6月30日の2時限「法学Ⅰ」の授業において,原告は「今,大学は私に対して嫌がらせをしている。今も事務から2人,授業のじゃまをしに来ている。教授にも自由というものがある。教育・研究の妨害だ。これは人権侵害に当たる。この大学は嫌がらせをして私を自発的にやめさせようとしている。家に帰って父兄にこういう大学だということをよく話しておいてください。」と発言した後,学生に自習を始めさせ,その後被告職員の座っていた机の真横まで歩いてきて,学生にも聞こえる程度の声で,結局H法学部長の仲間だけを残してまじめに頑張る先生は辞めさせようとしているとか,第1出校指示書に指示のあった平成22年6月24日に出校できなかったことに関する資料はあるが,出すつもりはないとか,第2出校指示書に記載のある同年7月6日は行くつもりがなく,法的手続を進めているとか,H法学部長に関して,「リュックを背負って出校日だけ来て,授業が終わったらすぐ帰る。それで法学研究科長もやっているなんておかしい。」などと発言し,賭けトランプの件やD評価の件,補講の教室を間違えた件についても,持論をもとにコメントをした。
 また,同日の3時限「法学Ⅰ」の授業において,原告は,大学に授業妨害をされているため通常の授業が実施できない旨を学生に説明し,「大学が授業を妨害している。研究室に入ることができず授業に必要なパワーポイントや資料を用意できない。」「大学は私をやめさせようとしている。」「皆さんは授業を受ける権利を妨害されている。このことは家に帰ったら父兄とよく話し合ってください。」「あの2人を見なさい。命令されて授業にケチをつけることを探すためにあそこに座っているが,命令されれば何をしてもいいのか。人を殺してもいいのか。」「今,法的措置を取っているところなので,来週には研究室に入れるはず。」「私は学長に『やめなさい』と言われた。公務員は保障されているのでこのようなことはあり得ない。レベルの低い民間に就職すると辞めさせられることがあるので,公務員になりなさい。」「国立大学だったら,事務の人間が教授にものを言うことはない。この大学は事務の在り方がなっていない。」などと発言した。
 (以上,甲10,乙34,35)
 これに対し,原告は,この日の記録は,被告職員が原告の同意なく教室に侵入し,授業内容を盗聴した上で作成したものであるから,違法収集証拠であると主張するが,本件については,一般に被告が大学の設置者として聴講を許可した場合に,その大学の講義を聴講することが違法との評価を受けることはないこと,原告自身,被告職員の存在に気づいており,およそ盗聴という概念にはなじまないこと,本件の場合,学生を馬鹿にしたり,他の教職員を批判したり,被告に対する不満を述べたり,賭けトランプの件に関する発言をしたりといった,およそ学問の自由の範疇にはないというべき種々の問題発言が以前あったことを踏まえて,本来の授業(債務の本旨に従った履行)が実施されているか,改善度合いを調査するという正当な目的があったと認められることに照らすと,およそ違法収集証拠たり得ないことは明らかであるから,所論は失当である。
サ 各種施設見学等の実施
 被告においては,学外授業を実施するとき,予め被告の許可を得る必要があり,学生が履修している他の授業に差し障りのない日程で実施することとし,原則として,月曜日から金曜日までの授業実施日には行わないこと,必要事項を参加者らに示すことが教員便覧に規定されているにもかかわらず,原告は,これに反し,その様式を定めた「学外授業実施許可願」を被告に提出することなく,平成22年7月5日に東京地方裁判所での裁判傍聴,同月8日には府中刑務所参観,同月23日には最高裁判所見学,国立国会図書館見学,東京地方裁判所での裁判傍聴を実施した。
 (以上,乙1,34,48,49)
 これに対し,原告は,各種施設見学は参加が任意とされているのであって,被告が主張するところの学外授業ではなく,以前,原告が提出した「学外授業実施許可願」も,本来は提出する必要のなかったものであったと主張する。この点,確かに,原告が授業で配布したレジュメには,各種施設見学等について「希望者のみ」「申込済者のみ」との記載があるが(乙34),他方,原告のシラバスには,原告の実施する全ての科目において,成績評価方法として「課外授業への参加」なども総合して評価するとされていることが認められるのであって(甲14の2),過去にも,原告の学外授業について,他の授業を履修している等の事情により参加できない場合は欠席扱いになると原告から言われたなどの点で学生に対する配慮が欠けていたことにつき,原告と教務グループとの間でやりとりがあったことにも鑑みると(乙50,52),大教室の授業であっても,毎回,出席者に対し座席表への氏名の記入を求めるほど授業への出席を重視する原告の姿勢を日頃から見聞きしている学生が,原告の主催する各種施設見学につき,真の意味で任意参加と受け止めていたかについては,やや疑問なしとしない。もっとも,この点は,解雇事由としては弱いものと考えられるのであり,ただ,「学外授業実施許可願」を被告に提出しなかったことにより,被告において,授業の状況や緊急時の教員及び学生の所在を把握することが困難となった限りにおいて考慮するにとどめるのが相当である。
シ 第2出校指示書に対する対応
 原告は,被告から第2出校指示書を受領したにもかかわらず,また,第1出校指示書に応じて出校することができなかった時は,そのことについての裏付け資料を被告から要求されたことがあったにもかかわらず,今度は何も連絡することなく,平成22年7月6日,出校しなかった。
 (以上,甲5の1ないし5の3,6の1,17,乙32,37の1)
 これに対し,原告が出校指示に応じなかったのは,出校指示書の内容が一方的なものであり,対等に話合いをしようという文面ではなかったことや,本件紛争の解決を法的手続に委ねていたことを理由として主張するが,第1出校指示書にあるように,今後の原告の処遇に関する話があることが明らかな状況にあるにもかかわらず,何の連絡もなくこれを無視したことが,労使間の信頼関係を決定的に破壊する一事情と評価されるとしても,やむを得ないものというべきである。
(2) 評価
 以上の認定事実によれば,原告には,春期の授業は担当させつつも,学長直属の管理下に置き,適切な指導・指示命令等を行うことで勤務態度等の改善状況をみるとともに,処遇に関する最終的な結論を出すまでの暫定的な措置として,本件配転命令を発令する「職務及び教育上の必要」に関する合理的な理由があるものと評価することができる。
 なお,本件配転命令に付された条件のうち,個人研究費・研究旅費の不支給については,別途授業に要する費用は申請することができることに関する注記がない点,研究室の管理については,入室の必要がある場合に「その都度」学長の承認を得ることを条件とする点において,これを文字通り解した場合にはあまりに煩瑣であり,実際には,管理の所在の明確化に主眼があり,事務局を通じた包括承認が実態となっており,鍵の返還も求めたわけではなかったという点で,いずれも措辞に不適切さを含むものであったというべきである。しかし,運用実態は上記のとおりであって,文言に疑義があれば質問・協議・是正の機会は随時あったものと考えられる上,そもそも,原告は,今後の処遇に関する面談が設定されていた平成22年6月24日及び同年7月6日にいずれも出校せず,上記のような質問・協議・是正の機会を自らふいにしていること,本件全証拠によっても,その他原告の職務内容,就業場所,賃金等の基本的労働条件に関する変更は認められないことを勘案すると,本件配転命令を無効とするほどの不合理な条件ということまではできない。
 また,本件配転命令に関する事情は,そのまま本件解雇事由における「職務に必要な適格性を欠く」場合に該当するに足りる合理的な理由があると評価することもできる上,原告の場合,その後の授業の改善度合いが芳しくないどころか,むしろ悪化するに至っており,第1出校指示書に応じることができなかったことの正当な理由について被告の要請があったにもかかわらず何ら資料を提供することなく,また,第2出校指示書についても何らの応答なくこれに応じなかったのであるから,原告自身,学長直属の管理下においてもその指導・指示命令に従うつもりがないことを態度で表明したと評価せざるを得ないのであって,原告の職務不適格はより明らかになったものというべきである。
 そうすると,他方で,原告のこれまでの研究業績に優れたものがあり,また,原告の授業やゼミにおける指導に感謝をする学生やOBがおり,さらに,今後,原告の指導を受けることができなくなることを惜しむ学生や大学院生がいることを勘案してもなお(甲7,11ないし13〔枝番省略〕,23ないし25,27ないし30〔枝番省略〕,40ないし46,62,66,67,71〔枝番省略〕,77,82ないし84,証人K,同L,原告本人),本件解雇の合理性を認定することができる。
2 本件配転命令・本件解雇の手続的相当性
(略)
(4) 小括
 以上によれば,本件配転命令及び本件解雇は,手続的相当性も備えており,社会通念上不相当ではなく,人事権の濫用ということはできない。
 また,配転事由及び解雇事由について上記のとおり検討したところを併せ考えると,手続面のみならず,実体面につき原告にとって有利な事情を最大限考慮してもなお,本件配転はその必要性・合理性を備えているということができ,また,本件解雇は,「客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)には該当せず,有効なものと認めることができる。
3 不法行為の成否
(略)
前記認定事実に照らすと,原告が「授業中に不適切な発言をし」「独善的な授業をした」ことは優に認定することができ(る)
(略)
4 結論
 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
 (裁判官 吉川昌寛)