芸能活動を禁止する校則に反して芸能活動を行い、「巷でウワサの爆乳現役女子高生」「勝負コスプレ」等とキャプションの付いたグラビア撮影等を行ったことを理由とする退学処分は適法として、女子高校の生徒たる地位確認請求を認めなかった事例(東京地八王子支判平成20年2月27日) #グラビア


第2 事案の概要
 1 原告は,平成18年10月当時,被告が設置運営する甲高等学校(以下「甲高校」という。)の全日制課程普通科の第3学年の生徒であった。
   本件は,原告が,被告に対し,被告による平成18年10月18日付け退学処分(以下「本件退学処分」という。)及び平成19年3月27日付け退学処分(以下「本件予備的退学処分」という。)のいずれもが権利の濫用にあたり無効であるとして,甲高校の生徒たる地位にあることの確認を求めた事案である。
 2 前提事実〔争いのない事実,証拠(略)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。〕
 (1)被告は,学校教育法2条1項,私立学校法3条に基づいて設立された学校法人であり,甲中学校,甲高校を設置運営して6年間の一貫教育を実施しており,平成18年4月現在,乙校長(以下「乙校長」という。)ほか,在籍教員数は専任教諭76名,非常勤講師67名等であり,在籍生徒数は甲中学校第1学年が289名,第2学年が296名,第3学年が296名の合計881名,甲高校第1学年が286名,第2学年が298名,第3学年が324名の合計908名である。
    甲高校卒業後の進路は,ほとんどの生徒が4年制大学を中心に進学しており,平成18年度卒業生については,4年制大学214名,短期大学23名,専門学校9名,就職1名,外国の学校3名,未決定者52名の合計302名である。
    甲中学校,甲高校は,「人間教育」を教育理念に掲げ,生徒一人ひとりを大切にし,豊かな人間性を育むことを目指し,中学校・高等学校の一貫教育を行う中で,独自の教育課程を実践し,「こころの健康,からだの健康」をモットーに教育を行ってきた。
 (2)原告は,平成13年4月に甲中学校に入学し,平成16年3月に同校を卒業し,同年4月に甲高校全日制課程普通科に入学し,平成18年10月当時は第3学年G組に在籍していた。なお,原告の在籍していたクラスの担任は丙教諭(以下「丙教諭」という。)であり,学年主任は丁教諭(以下「丁教諭」という。)であった。
 (3)平成18年7月25日,原告をモデルとした「現役女子高生 戊 ファースト写真集 撮影己」と題する写真集(以下「本件写真集」という。)が株式会社庚出版から定価2800円で発売された。本件写真集は,約100頁のもので,原告のみを被写体(水着姿も含む。)とした写真集であり,原告の比較的短い添え書きも記載されている。なお,「戊」は原告の芸名である。(証拠略)
 (4)被告は,同年10月18日,原告に対し,同日付け通達と題する書面により,同日付けで本件退学処分をした旨,及び付記事項として,同月23日までに保護者又は生徒本人が自ら願い出て退学届を提出した場合は退学処分を撤回し,その願いを受理する旨を通知した(証拠略)。
    退学処分の理由は,「在学中の芸能活動は厳に慎まなければならない」という学校の指導方針を大きく逸脱する行為があったというものであった。
 (5)原告は,同年12月28日,本件退学処分の無効確認を求めて本件訴訟を提起した。
 (6)被告は,平成19年3月27日付け通達(証拠略)で,原告に対し,予備的に退学処分とする旨の意思表示をした(本件予備的退学処分)。
    その処分の理由は,これまでに「在学中の芸能活動は厳に慎まなければならない」という学校の指導方針を大きく逸脱する行為があったため既に平成18年10月18日付けで退学処分を行っているが,原告がその効力を争い,かつ,その後も依然として芸能活動を継続している状況に照らし,予備的に本処分を行うというものであった。
 (7)原告は,平成19年5月23日,請求の趣旨を地位確認とする訴えの変更の申立てをした。
 (8)学則等について
    本件退学処分及び本件予備的退学処分当時の「甲高等学校学則」(以下「本件学則」という。)には以下の規定が存在する。
    懲戒につき,31条1項は,「本校の定める諸規則を守らず,生徒の本分に反する行為のあった者には,退学・停学・訓告の懲戒処分を行うことがある」と規定し,また,同条2項は,「退学は次の各号の一に該当する者に行う。(1) 性行不良で改善の見込みがないと認められる者,(2) 学力劣等で成業の見込みがないと認められる者,(3)正当の理由がなく出席常でない者,(4) 学校の秩序を乱しその他生徒としての本分に反した者」と規定している。
    甲中学校の入学時に生徒に対して配布される「学校生活の手引」には,学則,同施行細則のほか,服装規定,自主規制,海外留学規程等が掲載されている。原告が入学した際に配布された同手引(平成13年度2月改訂版。以下「本件手引」という。証拠略)には,芸能活動禁止に関する規定や規制の記載は存しなかった。しかし,被告では,相当以前から,生徒のアルバイトや芸能活動を禁止しており,被告は,これを明文化するものとして,平成15年2月に改訂した学校生活の手引(証拠略)から,これらの活動の禁止に関する規定を設けることとし,自主規制の後に「アルバイトや芸能活動等の禁止について」として,「本校では,アルバイトを禁止している。また,本人が承知した上で雑誌へ写真等が掲載されることやテレビ等への出演を禁止する。営利的な団体での芸能活動は勿論,非営利的な団体であっても授業・行事に差し支えるような活動はやめること。」と規定し,現在に至っている(証拠略)。なお,学校生活の手引は,職員室に備え付けられていた。
(中略)
 (1)高等学校の生徒に対する懲戒処分は,教育施設としての学校の内部規律を維持し,教育目的を達成するために認められる自律作用として,懲戒権者である校長にその行使が認められるのであるから,生徒の行為が懲戒に値するものであるかどうか,またいずれの懲戒処分を選ぶかを決するについては,その合理的な裁量に委ねられており,同判断が社会通念上合理性を欠き,校長に裁量の逸脱が認められるときは,懲戒処分は違法・無効となると解すべきである。
    そして,学校教育法施行規則13条3項は,退学処分について(1)性向不良で改善の見込がないと認められる者,(2)学力劣等で成業の見込がないと認められる者,(3)正当の理由がなくて出席常でない者,(4)学校の秩序を乱し,その他学生又は生徒としての本分に反した者という4個の具体的な処分事由を定め,甲高校の本件学則31条2項にも同様の規定があるが,これは,退学処分が他の懲戒処分と異なり,生徒の身分を剥奪する重大な措置であることにかんがみ,当該生徒に改善の見込みがなく,これを学外に排除することが社会通念からいって教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであるとの趣旨においてその処分事由を列挙したものと解される。
    そこで,退学処分について校長の判断が社会通念上合理性を有するか否かを判断するにあたっては,当該行為の軽重,本人の性格及び平素の行状並びに反省状況,当該行為に対する学校側の教育的配慮の有無,懲戒処分の本人及び他の生徒に及ぼす訓戒的効果,当該行為を不問に付した場合の一般的影響等諸般の要素を総合考慮すべきである。以下,本件について上記の要素について検討する。
 (2)本件芸能活動の懲戒事由該当性等について
   ア 原告による本件芸能活動が甲高校の禁止する芸能活動に当たるか否かについて検討する。
     上記認定のとおり,原告は,約100頁にも及ぶ原告のみをモデルとした本件写真集(水着姿の写真が相当数含まれる。)を全国的に出版し,著名週刊誌のグラビアモデルとして水着姿の写真を掲載し,インターネット上にブログを公開して本件写真集等の宣伝を行ったものであり,その費用を芸能プロダクションである辛が負担していたものである。このような活動の内容に照らせば,原告の本件芸能活動は,被告が禁止していた芸能活動に当たることは明らかというべきである。
     この点につき,原告は,辛とは正式な契約もしておらず,報酬も受領していないのであるから,上記諸活動は就職活動の一環であり,芸能活動ではないと主張する。確かに,前掲証拠によれば,原告は辛と正式契約をしておらず,報酬も受領していないことが認められるが,上記認定の甲高校が芸能活動を禁止している趣旨や目的からすれば,契約関係の有無や報酬の有無によって差異が生ずるものとはいえず,原告主張に係る上記事実があることが芸能活動に当たることの妨げになるとは認められず,上記判断は左右されない。
   イ 次に,甲高校では芸能活動が禁止されていることを原告が知りながら本件芸能活動をしていたか否かについて検討する。
   (ア)原告は,原告の入学時に配布された本件手引には芸能活動の禁止が掲載されておらず,芸能活動禁止の方針も周知されておらず,原告はこれを知らなかった旨を主張し,原告及び壬は,これに沿う供述をし,陳述書(証拠略)を提出する。
   (イ)ところで,学校が心身共に発達途上にある多感な生徒の学校生活における規律を定めるに際しては,その当時の社会生活の変化等に応じて適時に適切な規律を創設し,学内秩序の維持を図るべきことになるのであり,どのような規制・規律を設けるかは,当該学校の教育の理念等に照らし,懲戒権者である校長が合目的的にその権能を行使できるものということができ,その規制等が合理的なものであり,その後に周知の措置が取られるのであれば,在学後に新たな規制を設けること自体は何ら不当な措置とはいえない。
      本件においては,上記認定のとおり,被告における芸能活動の禁止は,新たに設けられた規制ではなく,原告が入学する以前から被告の教育方針として禁止されてきた芸能活動について,改めて明文の規定を設けたにすぎず,原告が中学校に入学した年度の学年誌や,甲高校に入学した年度の学年誌に芸能活動の禁止が明示されているほか,かかる指導方針はホームルーム等でも説明がされてきたものであるから,周知の措置がされていたと認められる上,内容についても特段不合理であるとは認められない。
   (ウ)芸能活動の禁止についての原告の認識については,上記のとおり,(1)平成18年6月16日にされた丁教諭と辛との面談において,芸能活動は禁止されており,芸能活動をした生徒は転校するなどしている旨の説明がなされているのであるから,少なくとも,芸能活動をすれば甲高校に在籍することは困難になることは十分理解し得たはずであること,(2)同月19日には丁教諭が原告に対して直接芸能活動は禁止されている旨を説明し,辛に対するのと同様に,芸能活動をすれば甲高校に在籍することは困難になる旨が伝えられていること,(3)原告が同年9月21日に丙教諭と面談した際に,芸能活動は禁止されていることは知っていたと述べたこと等からすれば,原告は遅くとも同年6月中旬ころまでには芸能活動の禁止を知っていたものと認められる。
      この点につき,原告は,芸能活動の禁止は知らなかった旨供述するが,信用できない。なお,原告は,上記(3)の丙教諭との面談の際,丙教諭から威圧的な尋問を受けてやむなく芸能活動禁止について知っていたと答えた旨供述しているが,上記丁教諭との面談の経過に加え,丙教諭の質問方法について威迫や誘導等がなされたと認めるに足りる証拠はなく,かかる原告の供述も直ちには採用できない。
   ウ 原告による本件芸能活動は,本件学則31条2項4号に該当するものと認められる。
   エ 本件芸能活動の軽重
     以上によれば,原告による本件芸能活動は,かなり本格的な商業ベースによる芸能活動というべきものであり,しかも,平成18年6月中旬以降にされた本件写真集の発行や週刊誌への写真の掲載等の芸能活動は,芸能活動禁止の方針を知りながら敢えてしていたものであり,甲高校における教育方針を否定するものである。上記学校の教育方針が採用されるに至った経緯や学校内での位置付け,本件芸能活動の態様等に照らせば,本件芸能活動は強く非難されるべき行為であり,上記教育方針を大きく逸脱する行為といわざるを得ない。
 (3)本人の性格及び平素の行状並びに反省状況
    原告は,平成13年4月に甲中学校に入学し,平成18年10月18日に本件退学処分を受けるまで,学校で問題行動を起こしたことはなく,過去に非行歴や処分歴等はうかがえない。
    原告は,平成18年9月21日以降の自宅謹慎期間中の同年10月11日に反省文を提出したが,以後の芸能活動の自粛については言及しておらず,本件退学処分の後も,雑誌のグラビアモデルになったり,DVD等のモデルになったりするなど,顕著な芸能活動を展開している。
    この点につき,原告は,芸能活動をやめると決めており,芸能活動を継続しないとの前提で記載した反省文のため以後の芸能活動の自粛についてはあえて言及しなかったものであり,乙校長等に対して今後芸能活動を辞めるので退学処分を撤回するよう求めたと供述及び陳述するが(証拠略),丙教諭や乙校長はこれを明確に否定し,また,自宅謹慎期間中にもかかわらず,平成18年10月3日から同月7日までの間バリ島に2回目のロケのため渡航して芸能活動に従事していたことや本件退学処分の後にも活発に芸能活動を行っていたこと等(証拠略)にかんがみれば,原告の上記供述は信用できず,むしろ,そのような謹慎すべき期間にあっても反省することなく敢えて甲高校の方針を無視する活動を行っていたというべきである。
 (4)学校側の教育的配慮等の有無
    甲高校においては,原告の本件芸能活動が発覚した当初,乙校長を含め,対応を協議したところ,原告の芸能活動の態様にかんがみ,原告に対する厳しい処分となる見通しであった。そして,学年会や職員会議に諮った結果も,退学処分もやむを得ないというものであった。他方,原告や辛との面談の過程において,原告らは,本件芸能活動が正当であることないし就職活動の一環であることを前提に学校側の方針に反する芸能活動を認めるよう主張したことが認められる反面,今後一切芸能活動を自粛する等明示的な謝罪があったと認めるに足りる証拠はない。
    原告は,被告が退学処分を決定するに際し,原告に対する教育的な配慮がなかった旨主張する。確かに,被告は,当初から原告に対して厳しい処分をもって臨むことについて協議をしていたことが認められる。しかしながら,学校側は,その後幾度にも渡り原告ないし辛と面談し,その弁解の機会を与えたものの,上記のように今後の芸能活動の自粛等の明示的な真摯な反省・謝罪は認められず,このことを受けて退学処分もやむを得ないとの結論に至ったと認められる上,本件においては,原告及び辛に対して,事前に芸能活動は禁止されており,芸能活動をした場合には甲高校に在籍することが困難になる旨の説諭をし,これを行わないよう説明を受けていたものであり,にもかかわらず原告において本件芸能活動を敢行したという事情が存することに照らせば,教育的配慮がなかったとはいえず,被告の対応が不当であるとは認められない。
 (5)懲戒処分の本人及び他の生徒に及ぼす訓戒的効果,本件芸能活動を不問に付した場合の一般的影響
    甲高校では,芸能活動を志向した生徒は,転校したり,高校の進学を断念したりしており,自主退学勧告に従わなかったのは原告が初めてであることからすれば,原告を退学処分にすることは,他の生徒に対しても,芸能活動禁止の教育方針の厳しさを改めて印象づけることができ,訓戒的効果は大きいといえる。他方,原告が,芸能活動禁止について注意をされていたにもかかわらず,これに違反して本件写真集の出版等に及んだ行為が不問に付され又は退学にまでは至らない結果になった場合,他の生徒に,かかる禁止規定の規制が大幅に弛緩されたと印象付けることは避けられないし,これを放置することが他の生徒による校則等の軽視や違反を助長する危険性は否定できない。
 (6)上記(2)ないし(5)で説示したところのほか,本件に現れた諸般の事情をも考慮すると,原告は,いわば確信的に,学校の方針である芸能活動の禁止に反した場合には転校等学内に止まれないことになる可能性が高いことを知りながら,敢えて芸能活動をすることを希望して本件芸能活動に及んだものと認められるのであり,その意味からすると今後学内において改善する見込みがあるとは認め難い。
 (7)上記の各事情を考慮すると,原告を学外に排除することとなる本件退学処分は社会通念上教育上やむを得ない措置ということができ,したがって,本件退学処分は社会通念上合理性を欠くとは認められず,校長に懲戒権行使にあたっての裁量の逸脱があったとは認められない。


なお、「桐朋女子高等学校退学処分訴訟」で検索するといいことがあるかも。