中国残留孤児とその親であると確信する者の間に生物学上の親子関係はないとして、親子関係を否定するに当たり、深い同情を示した事案(釧路家審昭和57年3月15日家庭裁判月報35巻4号92頁) #蛇足

終戦の後三〇余年をすぎてようやく得られた手がかりをもとに、申立人が莫大な費用と労力を惜しまず、その生涯をかけて事件本人を捜索した結果が本件申立であることは、申立人の被つた苦労あるいは申立人の払つた努力のほんの断片を伝えるにすぎない本件記録にあらわれた資料からも十分窺われ、また、本件において、甲がいわゆる中国残留孤児であり日本人であることは明らかであり、申立人と甲とが互いに親子であることを確信し、双方に実の親子あるいはそれ以上の情愛が通い合つていることも十分に窺われるところである。しかして当裁判所は、申立人の払つてきたその努力あるいはその労苦に対し、深い感動と敬意を憶えるものであり、親が子を思い、子が親を思うその情愛の深さを見るにつけ、今次戦争の犠牲となつた申立人らの境遇と今日に至るまでのその心情に対しても、深い同情を禁じえないのであるが、しかし、前述した次第によつて、裁判所の判断としては、本件申立はこれを却下せざるを得ない(なお、本件の実情に鑑み、当裁判所としては申立人が関係諸機関の協力を得てその意図するところを速やかに実現できることを期待したい。)。