「のぞき見目的で民家の囲繞地に侵入した事案」について、裁判所が検察の罰金10万円という求刑に不満を表し、懲役1年(執行猶予3年)に処すに当たり、検察官が「求刑変更の要否」を真剣に検討し直していないことを批判した事案(五條簡判平成23年10月7日) #蛇足

 なお,本件の審理の経過等に鑑み,最後に一言当裁判所としての所感を述べる。
   本件は,検察官の略式起訴に対し当裁判所が罰金刑で処断するのが相当な事案とは思われないとして「略式不相当」と判断し通常手続に移行した事案である。
   しかるに検察官は,公判に至っても略式請求時の求刑を変更せずそのまま維持されたが,その論告の内容を見ても,「求刑変更の要否」を真剣に検討し直した結果なお従前の求刑を維持したものとは,とても思われない,通り一遍の内容のものであった。
   思うにこれは,検察官が「略式不相当とした裁判所の判断自体が非常識な判断であるなどと考え,まともに求刑変更の要否を再検討もせず漫然と略式請求時と同じ罰金求刑を踏襲されたか,しからざれば,面子にこだわり,従前の求刑に固執されたかのいずれかではないか。」との疑念が払拭し難く,当裁判所としては,甚だ遺憾に思う次第である。

   検察官は,公益の代表者として,刑事事件においては,事案の軽重に応じた寛厳よろしきを得た適切な処分や求刑等をすることにより,被疑者や被告人の再犯を防止すると共にその更生を図り,もって社会の安全と秩序を保持すべき重大な使命を有する重職であるのに,その見識に疑問を抱かざるを得ないのは誠に残念である。