「昭和の巌窟王」吉田石松翁の再審無罪を言い渡すに当たり、被告人ではなく吉田翁と呼び、誤判を陳謝した事案(名古屋高判昭和38年2月28日判327号4頁) #蛇足

わが裁判史上曽つてない誤判をくりかえし、被告人を二十有余年の永きにわたり、獄窓のうちに呻吟せしめるにいたつたのであつて、まことに痛恨おく能わざるものがあるといわねばならない。
以上の次第であるから、被告人に対する本件公訴は結局犯罪の証明なきに皈し、旧刑事訴訟法(大正十一年法律第七十五号)第五百十一条第三百六十二条、第六百十六条第一項、現行刑事訴訟法施行法第二条に則り無罪の言渡をなすべきものとする。
ちなみに当裁判所は被告人否ここでは被告人と云ふに忍びす吉田翁と呼ぼう、吾々の先輩が翁に対して冒した過誤を只管陳謝すると共に実に半世紀の久しきに亘り克くあらゆる迫害に堪え自己の無実を叫び続けて来たその崇高なる態度、その不撓不屈の正に驚嘆すべき類なき精神力、生命力に対し深甚なる敬意を表しつつ翁の余生に幸多からんことを祈念する次第である。

なお、その4年前には再審を否定し、「有罪判決を受けて四〇数年を経過した今日、なお自己の冤罪を叫び続け、その後半生のすべてを自己の無罪の立証に賭してきた請求人にとつて、その最後の希望が遂にかなえられなかつたことについては、一抹の同情を禁じ得ない。然し、法的紛争は、法的手続に従つて解決されなければならないのである。請求人としては、他に救いを求めるべきであろう。」(名古屋高決昭和34年7月15日判時192号6頁)といった判決もある。