業務関係の「重過失」の判断事例

・ボイラー夫が北側焚口と蓋の隙間から火の粉が飛出し、前面床上に散乱している紙屑等に着火して燃え広がり大事に至る危険が存することを容易に予見し得たにも拘らず、このことに全く意を致すことなく漫然ボイラー室を立去り、番台で世間話をしていたために火災が発生すれば、これは重過失である(大阪高判昭和41年11月28日民集21巻6号1536頁、最判昭和42年6月30日民集21巻6号1526頁の原審)。
・可燃物の多い店舗内で、電気グラインダーを使つて石のみを研摩していた者が、足もと近くの出火を突然知らされ、驚いて踏消そうとしたが果せず、そのままでは燃え広がるような状態を呈したため、急ぎ、消火用の砂を取りに行こうと戸外へ飛出すに際し、動転していたことと焦りとが手伝つてかたわらに積んであつたガソリン缶を倒し、出火した場合に重過失はない(大阪高判昭和50年1月30日判タ323号183頁)
・製パン工場で、鋸屑自動パン焼炉から小火が起り、その消火をしたが、その際の残火が附近に堆積していた鋸屑に引火し火災を起こした場合に、右工場主には消火に際し残火が落ちてないかどうか慎重に確かめ、その附近に水をまいて完全に消火し、更に右鋸屑を除去するなど万全の措置を講じて火災の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠つて就寝した過失があり、右不注意の程度は失火ノ責任ニ関スル法律但書にいう重大な過失に当る(広島地判昭和48年3月26日判タ298号272頁)
・ガス事業者の業務委託店がガスレンジの後壁に不燃材を使用しているか否かを確認せず、かつガスレンジ使用者に適切な忠告をすることなくガスレンジとガス栓を接続したことに、業務上の過失があるが、内装工事人に不燃材を使用するよう要請し了承を得られていたため、後壁内部には不燃材が使用されているものと信用していたこと等から、その過失をもって重大な過失とはいえない(浦和地判平成1年9月27日判タ729号181頁)
・引火性の強い接着剤を漫然と点火中の石油ストーブに近接して用いることに重過失がある(東京地判平成3年7月25日判タ780号232頁)
・配管貫通箇所の配管の周囲に5ないし6ミリのすきまがあるモルタル壁と1センチ数ミリしか隔っていないエルボをアセチレンガス切断機で加熱して抜き取る工事を行うに当り、右すきまから右切断機の火炎もしくは火熱がモルタル壁内部に侵入して火災を引起こす可能性のあることが容易に想像でき、かつ、作業員も十分これを認識していたとして、何らの火災防止手段を講ぜずアセチレンガス切断機でエルボを安易に加熱し、更に右作業完了後建物のモルタル壁の火炎の当った箇所が茶褐色に変色していたのに十分確認をせず、そのまま放置したことは重過失にあたる(福岡地判昭和52年9月29日訟月23巻11号1868頁)
・マンション解体工事において、アセチレンガス切断機による鉄骨切断作業中に、高温の溶融塊が飛散して付近の段ボール箱等の可燃物に引火し、隣家に延焼した事故は、防炎シートを設置したり、可燃物を除去するなどの火災防止の注意義務を尽くさなかった工事元請会社従業員の現場監督者及び火災防止措置が講じられていることを確認すべき注意義務を尽くさなかった下請会社従業員の重過失による(宇都宮地判平成5年7月30日判時1485号109頁)
・ガス溶接技能者としてアセチレンガス切断機を使用して鉄骨等を切断する者は、その作業が危険性を伴うことは熟知していたはずであり、アセチレンガス切断機以外の方法を選択するか、仮にアセチレンガス切断機を使用する場合には、アセチレンガス切断機から発生する火花の可燃物への着火を未然に防止するための十分な防火措置を講ずるべき注意義務を負っており、それに違反した場合には重過失があるといえる。(東京地判平成18年11月17日判タ1249号145頁)
・ラーメン店舗の火災事故につき、店舗内装工事の請負人には、ガスレンジの設置に当たり、条例の設置基準に依拠し、壁との距離の確保等につき十分確認し火災の発生を防止すべき注意義務があるところ、断熱材が使用されていたとは認められないのに、壁との距離を条例の設置基準に違反してガスレンジを設置したことは右注意義務に著しく違反する重大な過失がある(東京地判平成8年10月18日判時1613号110頁)
・そばかまどの煙突からの輻射熱により壁面の木ずり部分から出火した場合において、そば店主は煙突の構造、壁からの距離につき専門業者に一任しており、店主は何ら指示もせず、知識も有しておらず同種の設備が火災を起した例はなく、消防署の査察でも具体的警告等のなかつたこと等よりすれば同人に重過失は認められない。(東京地判総和46年11月27日判時661号63頁)