「今日のパンツは何色」などと申し向けて迷惑防止条例違反で有罪とされた事案の原判決(さいたま地判平成22年8月6日)

       主   文

 被告人を懲役8月に処する。
 未決勾留日数中30日をその刑に算入する。

       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,常習として
1 平成22年5月4日午前8時10分ころ,埼玉県久喜市(以下略)先路上において,通行中の甲(当時16歳)に対し,「それじゃあパンツ見えるよ。今日のパンツは何色。」などと申し向け
2 同日午後11時25分ころ,同市(以下略)先歩道上において,通行中の乙(当時21歳)に対し,ことさらに自己の陰茎を露出して示した上,自慰行為をして見せ,もって,公共の場所において,人を著しく羞恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしたものである。
(証拠の標目)(括弧内の甲,乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
 ◇ 被告人の当公判廷における供述
 ◇ 被告人の検察官に対する各供述調書(乙5ないし7)
 ◇ A(甲1)及びB(甲3)の警察官に対する各供述調書抄本
 ◇ 警察官作成の各実況見分調書抄本(甲2,4)
(法令の適用)
 被告人の判示所為は,埼玉県迷惑行為防止条例12条2項,同条1項1号,2条4項に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,その刑期の範囲内で被告人を懲役8月に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中30日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,常習として,公共の場所で,通行中の女性2名に対し,卑わいな言葉をかけたり,自己の陰茎を露出したりしたという埼玉県迷惑行為防止条例違反の事案である。
2 自己の性的欲求不満を解消したいなどという動機に酌量の余地はなく,態様も大胆かつ卑劣で悪質である。本件犯行により,被害者らはいずれも非常に恥ずかしく怖い思いをし,簡単には癒えることのないであろう精神的苦痛を受けたもので,その処罰感情が厳しいのも当然である。また,本件犯行が地域住民に与えた不安感も大きい。
  被告人は,平成16年ころから,女子中高生に対し,卑わいな言葉をかけたり,臀部を触るなどの行為を繰り返すようになり,同年12月には,女性の臀部を触るなどして,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反により罰金20万円に,平成18年3月には,女性の乳房を掴んだり,卑わいな言葉をかけるなどして,上記条例違反により懲役6月,3年間執行猶予に,平成20年12月には,女性を追いかけてつきまとうなどして,軽犯罪法違反により科料9900円に,それぞれ処せられたにもかかわらず,その後,平成22年3月ころから,被告人の当公判廷における供述によっても,約20人の女性に対して卑わいな言葉をかけたり,そのうち約3人の女性に対し自己の陰茎を見せるなどした挙げ句,本件犯行に及んだもので,その常習性は顕著であり,この種事犯に対する規範意識は乏しく,再犯に及ぶおそれも否定できない。
3 他方で,被告人のために酌むべき事情として,被告人は事実関係を認めて反省の態度を示し,被害者らに対する謝罪文を作成していること,被告人の母親が情状証人として出廷し,今後は被告人と同居して監督する旨誓っていることが挙げられる。もっとも,同証人は,これまでも被告人と同居しながら十分な監督をしてこなかったことに照らすと,今後の監督にも不安が残るといわざるを得ず,この点はさほど被告人に有利に斟酌することはできない。
4 これらの諸事情にかんがみると,本件は刑の執行を猶予すべき事案であるとは解されず,主文のとおりの実刑に処するのが相当であると判断した。(求刑−懲役1年)
 よって,主文のとおり判決する。
  平成22年8月6日
    さいたま地方裁判所第3刑事部
           裁判官  寺尾 亮