統合失調症患者である20歳の甲が女性を殺害した事案について、甲の父親は、甲による他害防止のため保護監督が不可欠と予見しており、法定監督者又は代理監督者に準ずる地位にあるとして賠償責任を認めた事案(福岡高判平成18年10月19日判タ1241号131頁) #成人の行為の管理監督

 しかし,本件事件当時,甲は20歳であり,控訴人はその法定代理人ではなく,また,監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者にも当たらないとしても,前記のとおり,控訴人はこれに準じる者として民法714条所定の責任を負うものと解すべきところ,甲は,平成14年2月20日には他室のドアを叩いて出てくるように叫ぶなどするとともに,警察官に対して殴りかかろうとして保護され,また,同年3月3日にも,他室のドアを叩くなどしたうえで意味不明な発言をし,自室もひどく荒れていて,窓ガラスに椅子が突き刺さってぶら下がるなどの状態であったことから,警察官によって保護されていたものであり,控訴人もこれらの状況を聞いて知っていたうえ,警察官から精神科で受診させることを勧められていたのであって,甲が第三者に対する加害行為を行う危険があることは,専門的知識を有していない控訴人にとっても予期できたはずであること(なお,鶴見警察署長の原審に対する回答書〔甲18の1〕には,臨場時の取扱いでは自損他害のおそれはなく,暴れることもなく素直に対応していたうえ,家族への引渡しが決定していたため,精神保健福祉法24条所定の都道府県知事に対する通報をしなかった旨記載されているが,上記はあくまでも警察官が臨場した際の甲の様子をいうものであって,将来的にも同人に自損他害のおそれがないというものではなく,このことは,同回答書の「(4)保護の必要性」の欄に「一人暮らしが判明し,再通報が入るなど異常な行動が判明し,このまま放置すれば同様通報が繰り返されると判断し鶴見警察署に保護した。」との記載があることからも明らかである。),甲は自宅でも,突然笑い出したり,独り言を言ったり,画像の写っていないテレビを見ていたり,「頭がおかしくなりよる。」等と弟の乙に述べるなどしていたのであるから,甲を引き取って自宅に連れ帰った後も,甲は突発的な異常行動に出る危険性が継続する状態にあったものというべきところ,このことは,控訴人も認識し得たものと認められること(なお,控訴人は,留守宅における甲の発言等は知らなかったと供述するが,控訴人としては,不在の間の甲の状態を乙から確認すべき義務を負っていたものというべきである。),甲を被疑者とする本件事件についての捜査段階における精神鑑定書(甲10)においても,「被疑者は妄想型分裂病者であり,本件犯行当時にはその幻覚妄想に支配された病態にあった。このために,犯行直前には幻覚による異常言動があり警職法による精神異常者として警察に2度も保護され,精神病院の受診を指導されていた。両親はそれを十分に認識するべきであったが,認識の甘さと深刻に考えたくない気持ちから,所用に紛れて被疑者を受診させることを躊躇ったものと思われ,何れにせよ,受診が遅れ,本件犯行を防ぐことができなかった。」と判断されていること,警察が甲について県知事に対する通報をするなどしていなかったとしても,そのことをもって,控訴人の被控訴人らに対する責任を否定すべきものと解する余地はないこと,からすれば,控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。