恵方巻に関する「招福巻」との商標権を持っていた者が、「十二単の招福巻」と称して恵方巻を販売していたスーパーマーケットチェーンを訴えたが、「招福巻」が普通名称となっていたとして、商標権の効力が及ばないとされた事例(大阪高判平成22年1月22日判タ1321号197頁) #節分

本件商品(節分用巻き寿司)の由来等について
ア 証拠(甲16,乙5~8)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 「節分」とは季節の分かれ目のことで,立春,立夏,立秋,立冬のそれぞれの前日を指すが,現在行事として残っているのは,立春の前日の節分 (2月3日ころ)である。古く飛鳥時代に疫病を鬼に見立てて追い払う 「追儺(ついな)」(鬼やらい)の儀式が行われたという記録があり,平安 時代になって追儺の儀式が年中行事になり,さらに室町時代には鬼神が都 に乱入しようとしたのを,炒り豆を投げつけて追い払ったということで,節分に豆まきの風習が行われるようになった。このように,「節分」はもと もとは「鬼を追い払う」儀式であるが,次第に「福を呼び込む」儀式とし ての性格も帯びるようになった。
 豆まきについては,乙7(株式会社小学館2002年5月1日第1刷発 行の「【ホームパル・デラックス】冠婚葬祭 暮らしの便利事典 改訂新版)に「豆まきは,季節の変わり目にありがちな災害や疫病を鬼に見立て, 追い払って厄を祓う行事です。...家の外に向かって「鬼は外」,家の中に向 かって「福は内」と2回ずつ唱えながらまきます。まき終わったらすぐに 戸締まりをして鬼を閉め出し,福が逃げないようにします。」との記載がある。
 豆まきのほか,節分の日に巻き寿司を食するようになった起源は定かではないが,甲16(昭和7年に大阪鮓商組合後援会が得意先向けに作成した「巻寿司と福の神」と題するビラ)に花柳界で行われていた風習が一般 に広まった旨の記載があるほか,乙5の書物中の大阪府すし商環境衛生同業組合平成2年発行のビラに「江戸時代の末期若しくは明治の始め頃から 大阪の中心地,船場が発祥地とされております。商売繁盛,無病息災,家 内円満を願ったのが事の始りです。」と記載がある。その後,大阪を中心に「節分の日にその年の恵方に向いて無言で壱本の巻寿司を丸かぶりすれば 其年は幸運に恵まれる」と言い伝えられ,遅くとも昭和7年ころには大阪 の一部地域において,節分に恵方を向いて巻き寿司を丸かぶりする風習が行われるようになった。
 昭和7年には,大阪鮓商組合後援会が節分に恵方を向いて巻き寿司を丸 かぶりすれば幸運に恵まれるとするビラ(甲16)を発行し,その中で, その由来を紹介するとともに,これに用いる「幸運巻寿司」なる巻き寿司 の販売を宣伝している。大阪鮓商組合後援会は昭和15年ころにも,これと同様の宣伝ビラを発行していた。その後,時を経て昭和52年ころ,大阪海苔問屋協同組合が「幸運巻ずし」と銘打って節分に巻き寿司を丸かぶりすることを勧める宣伝活動を始め,また,関西厚焼工業組合も同じころ から広範囲で同様の宣伝活動を行うようになり,昭和62年ころには,関 西地方のみならず,岐阜,浜松,金沢,新潟等の各都市や九州地方にまで 上記同様の宣伝ビラを送付していた。その後,スーパーマーケットなどで も宣伝を行うようになり,節分に恵方を向いて巻き寿司を食する風習が関 西地方を中心に次第に広い地域に広がっていった(乙5)。
なお,乙3の6のインターネットサイトには,「節分に巻き寿司を食べる風習は,福を巻き込むという意味と,縁を切らないという意味が込められ, 恵方(えほう)に向かって巻き寿司を丸かぶりするようになった。節分に巻き寿司を食べる風習は,主に関西地方で行われていたものだが,大阪海苔問屋協同組合が道頓堀で行った「巻き寿司のまるかぶり」の行事をマスコミが取り上げ,それを見た全国の食品メーカーが便乗し全国へ広まっていった。(語源由来辞典より)」との記載がある。
 乙6(株式会社汐文社2006年2月第1刷発行の「日本の伝統文化・ 芸能事典」)には「節分【せつぶん】悪疫退散や招福の行事」として「太巻きを丸かじり 節分の日に〈福を巻きこむ〉太巻き寿司を,恵方をむいて 無言で丸かじりすると,一年間健康で(いら)れるといわれています。」と記載され,乙8(株式会社主婦の友社編著平成13年3月1日第1刷発行 の「冠婚葬祭実用大事典」)にも,節分に係る風習の一つとして,「●恵方に向いて太巻きずしをかじる福を呼ぶというもの。」と紹介されている。
 なお,「招福」の語については,平成11年7月10日株式会社三省堂発 行の「新辞林」(乙9)及び平成18年10月27日株式会社三省堂発行の 「大辞林第三版」(乙1)に「招福 福を招くこと。(-の招き猫)」と記載 されているほか,平成18年には広辞苑第6版(乙44)にも「しょう- ふく【招福】 福を招くこと。幸運を呼び込むこと。」との記載が登載された。
イ 以上によれば,節分に恵方を向いて巻き寿司を丸かぶりする風習は遅くとも昭和7年の段階で少なくとも大阪の一部地域で行われていたものであり, 大阪の巻き寿司関連業界の宣伝活動によって次第に広がり,昭和の終わりこ ろには,大阪以外の関西地方,さらには関西地方以外の地域にも広がり,近年は,乙8のような全国の一般家庭向けの冠婚葬祭事典にも紹介される等, さらに広範囲に広がりつつあるということができる

なお、恵方巻きの起源に関する司法判断 - Togetter参照。