法律婚の関係にある夫が、不貞行為の相手方との間で新たな生活実体を形成していたため、夫が死亡しても妻は遺族年金を受給できないとした上で、妻のこれまでの苦労への敬意と同情を示した事案(名古屋地判平成13年9月14日判タ1086号124頁) #蛇足

以上を総合すれば,いずれの観点からも,原告と甲との婚姻関係は,甲の死亡時点において既にその実体を失って形骸化し,その状態が固定して近い将来解消される見込みのない状態となっていたものというべきであるから,遺族厚生年金の受給資格を有していなかったと判断せざるを得ない。
  なお,法律婚を原則としている我が国の法制からすれば,原告の主張するように,クリーンハンドの原則に反する重婚的内縁者よりも,戸籍上の配偶者をできる限り保護すべきとの立論も考えられないわけではなく,結果的に不貞行為の相手方も保護され得ることについては議論の余地があるようにも思われるところ,当裁判所としても,記録上認められる原告のこれまでのご労苦に対しては,深甚なる敬意と同情を禁じ得ない。
  しかしながら,原告の主張に沿って,年金等の受給資格を判定するに際し,有責性の有無や戸籍上の配偶者の要保護性を考慮することは,懲罰的あるいは生活保護的思想を年金制度に持ち込むこととなって,同制度本来の趣旨と必ずしも適合するとはいい難く,少なくともそのような制度を採用していない現行制度の下では,前記のように解さざるを得ない。