弁護士のメーリングリストでの情報交換によっても財産を発見することができなかったこと等から、知れている財産に対する強制執行では完全な弁済を得られないことの疎明があったとして、財産開示却下した原決定を取り消した事案(大阪高決平成22年1月19日判時2096号79頁)#メーリス

一 抗告人は、貸金業者である相手方に対し、東京地方裁判所平成二〇年(ワ)第二一一三九号不当利得返還請求事件の執行力ある確定判決に基づき、不当利得(過払利息)の返還として元本三四九万四八四七円、並びに確定利息として四四万三七七五円、及び将来の利息として元本に対する平成一三年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払請求権を有することから、民事執行法一九七条一項二号に基づき、相手方について財産開示手続の申立てをしたが、原決定がその疎明がないとして申立てを却下したので、本件執行抗告を提起した。
 二 一件記録によると、抗告人は、財産調査報告書及び添付資料により、(1)相手方の本店、東京支社、新橋支店及び大阪支店の所在地の各土地、建物の所有者は、いずれも相手方ではなく、他に相手方に営業所があるとは認められないこと、(2)相手方の有する預金債権については、(ア)株式会社三井住友銀行新宿支店に、普通預金口座が存するが、平成二一年七月二七日現在の預金残高は三万円余しかなく、すでに他の二名の債権者が差し押さえていること、(イ)株式会社三菱東京UFJ銀行新橋支店に、普通預金口座が存するが、同年六月二二日現在の預金残高は、一四万円余しかなく、これもすでに他の五名の債権者が差し押さえていること、(3)相手方の所有する動産については、執行が行われたが成就しなかった経緯があることが判明したこと、(4)抗告人は、数千人の弁護士が参加するメーリングリストにおいて受信した電子メールによる情報交換によっても、他に相手方の財産を発見することができなかったことを疎明した。
 なお、本件の事案に鑑みると、仮に相手方において不動産を所有しているとしてもオーバーローンとなっている可能性が高く、また、抗告人から借入金の返済を受ける預金口座にあっては、入金後、相手方によってただちに払戻しが行われているものと考えられ、さらに、一般に、賃借物件についての敷金返還請求権は回収が不確実であるというベきである。
 三 以上によれば、抗告人については、上記債権につき、任意弁済の可能性もなく、民事執行法一九七条一項二号にいう「知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があった」と認めるのを相当とする。
 なお、抗告人代理人が、本件の申立てが認容されたときには、これにより得られた情報を上記メーリングリストを利用して共有すると述べていることから、同代理人について情報の目的外利用を疑われることがあり得ないではないこと、任意弁済を受けることを目的として財産開示の申立てをする債権者がいることは、それだけでは本件申立てが濫用的なものであるとは認められない。
 四 よって、抗告人の本件申立てを却下した原決定は相当でないから、本件を原審に差し戻すこととする。
(裁判長裁判官 前坂光雄 裁判官 菊池 徹 前原栄智)