キムチを摂取した場合に顕出されたとして報告されている覚せい剤は尿一〇〇グラム中に1マイクログラム未満に過ぎないのだから、被告人の尿から検出された覚せい剤は、キムチ摂取によるものではないとした事案(東京高判昭和59年10月9日東京高裁判決時報刑事35巻10〜12号81頁) #弁解

所論は、被告人の尿から覚せい剤の検出された事実があったとしても、それは被告人が当時摂取したキムチによるものである可能性が否定できないという。しかし、キムチを摂取した場合に顕出されたとして報告されている覚せい剤は尿一〇〇グラム中にわずか〇・二ないし〇・三マイクログラムというきわめて微量なものにすぎないところ、他方、薄層クロマトグラフィーによる検査の結果、呈色反応があらわれるためには、検体中に少なくても五マイクログラムの覚せい剤の存在を必要とすることは、経験則上明らかなところであって、このことは、当審において取り調べた宮野豊外一名作成の「尿に含まれる覚せい剤の鑑定について」と題する書面によっても確認されるところである。したがって、被告人が所論のように本件当時キムチを摂取していたとしても、それによって右の検査結果に顕われるほどの覚せい剤が被告人の体内に生成されることはあり得ないはずである。そのほか、右の尿中の覚せい剤が被告人の故意に基づかずに摂取されたものであることを窺うべき証拠は存しない。論旨はいずれも理由がない。