崇徳院の和歌(瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ)に基づいた江戸時代の浮世絵の模写等につき、原画の特徴的表現の一部を再現しながら新たな創作的表現を付与したとして二次著作物としての著作物性を認めた事案(東京地判平成18年3月23日判タ1226号257頁) #崇徳

ア 本件原画3は,崇徳院の和歌(瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ)に基づいて,本来,町人が従事した焼継師の仕事を崇徳院のような高貴な身分の者が従事しているという架空の様子を描くと共に,崇徳院の和歌と焼継師の仕事とを掛け合わせた狂歌(岩にせく 瀧の模様の 瀬戸ものの われても末に あわすやきつぎ)とを組み合わせた遊び画である。本件原画3には,まげを結い,ひげをはやした高貴な人物が,薄笑いを浮かべながらあぐらをかき,割れた瀬戸物に筆で焼継用の薬を塗っている様子及び割れた瀬戸物の破片が散らばっている様子が正面から描かれている(証拠略)。
 イ 原告絵画3は,江戸時代の商売の様子を描いた絵画とその解説文を掲載した書籍に発表されたものであり,江戸時代の焼継師の一般的な姿態を描くことを目的として,本件原画3の狂歌部分を模写せず,焼継師の姿及び割れた瀬戸物の破片が散らばっている様子を抜き描きしたものである。また,本件原画3では,高貴な身分の者が焼継作業に従事しているが,原告絵画3では,江戸時代の町人の風俗を再現するため,焼継師のまげを町人の形に描き直し,ひげも描いていない(証拠略)。
 ウ 本件原画3と原告絵画3を比較すると,いずれも正面からあぐらをかいて作業をしている焼継師の姿及び割れた瀬戸物の破片が散らばっている様子などが描かれている点でその特徴的表現部分において共通するものの,本件原画3では,高貴な者が焼継をするという狂歌の場面を主題として高貴な人物が描かれているのに対し,原告絵画3においては,江戸時代の町人の風俗を再現するため,町人である焼継師を描いており,この点で,本件原画3における特徴的表現を変更した表現となっているものである。したがって,原告絵画3は,本件原画3の特徴的表現の一部を再現しながら,新たに亡一馬による創作的表現が付与されているものであり,本件原画3の二次的著作物として著作物性が認められるものである
 被告は,創作性の有無については,原画制作者の主観を考慮すべきではなく,本件原画3の主たる創作部分は,焼継師の作業の姿形であるから,それをそのまま模倣した原告絵画3に新たな創作性の付与がないことは明白であるし,まげやひげの変更も,焼継の仕事を町人がするというありふれた設定に変更したことに基づく些細な変更にすぎないなどと主張する。
 確かに,原告絵画3は,本件原画3における焼継師の作業の姿形をそのまま利用していることは上記のとおりである。しかし,本件原画3と原告絵画3との関係は,いずれも江戸時代の町民の日常生活の一端を描いた本件原画1と原告絵画1との関係とは異なるものである。すなわち,本件原画3は,高貴な者が焼継師に従事しているという狂歌と組み合わせた遊び絵であるのに対し,原告絵画3は,江戸時代の町人の風俗やその生活振りを描くという目的から,町人の焼継師を描いたものであり,焼継の仕事をしている焼継師の様子を淡々と描いているものであることは上記のとおりであり,この点で亡一馬の思想が創作的に表現されているものというべきである。被告の上記主張は採用することができない。