看板に駐車料金等が書かれた有料駐車場の利用契約は、両当事者に契約意思がある場合にのみ成立するので、料金を踏み倒すつもりで駐車しそのまま出庫している者に契約締結意思はないから、利用規約に基づく駐車料金の請求は認められないとした事案(岐阜地判平成21年10月21日) #利用規約

(1) 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 ア 控訴人は,名古屋市甲区乙丁目で本件駐車場を管理している。
 本件駐車場は無人の駐車場で,駐車代金の精算は駐車場の利用者が精算機に千円札又は硬貨を投入することによってなされている。
 イ 本件駐車場には,「昼間8:00〜18:00 100円/40分 夜間18:00〜8:00 200円/40分 土日祝 昼間 8:00〜18:00 100円/30分」と大きな文字で書かれ,「入庫時 フラップ板(ロック板)が下げっていることを確認の上,ゆっくり入庫してください。フラップ板を前輪又は後輪で完全に乗り越えて車室枠線内に駐車してください。」「出庫時 料金精算後,フラップ板が完全に下がったことを確認の上,5分以内に出庫願います。」「駐車場のご利用は,48時間以内に限ります。ロック板が上がっていたり,車高が低く,車に破損を与えそうな車両は十分に注意していただくか,又は駐車を見合わせてください。料金精算後にロック板が完全に下がって,車両が出庫出来るのを確認の上,車を出庫させてください。不正行為又は利用方法,利用規約に違反した場合,・・・駐車場利用者(所有者及び同乗者を含む。)は,(1)正規駐車料金,(2)損害賠償金(チェーン施錠,レッカー移動費用等実損諸費用)及び(3)違約金10万円を管理者に支払わなければなりません。」などと小さな文字で書かれた看板がある(略)。
ウ 被控訴人は,平成20年6月19日,本件車両を本件駐車場に駐車した。その際,被控訴人は,本件車両がフラップ板を踏みつけた状態で駐車し,駐車料金の支払いをしないまま,出庫した。控訴人の関係者は,同日午前11時19分ころ,本件車両が車輪止めを踏みつけた状態で駐車しているのを見つけ,写真を撮影した(略)
(中略)
(3) ところで,財又はサービスの提供を受けようとする者が,自ら硬貨や紙幣等を入れて代金を精算するという無人の設備でもって,財又はサービスの提供を受けた場合,財又はサービスの提供者と利用者の双方とも契約の申込み又は承諾の意思表示をしたとはいえないものの,財又はサービスの提供者と利用者の双方が契約を成立させる意思を有すると認められる限りにおいて,その契約が成立したものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに,被控訴人が,フラップ板を踏みつけた状態で本件車両を駐車し,駐車料金の支払いをしないまま,出庫していることからすると,被控訴人は,そもそも本件駐車場の駐車料金を支払う意思は全くなく,本件契約を締結する意思がなかったものと認められる。そうとすると,控訴人と被控訴人との間で本件契約は成立していないというべきである

 この点,控訴人は,「控訴人が,管理する駐車場を利用者に対し一定の内容で賃貸する意思があることを駐車場内の看板で表示していること,被控訴人が,控訴人の掲示した看板に表示された意思内容を十分に認識していることから,控訴人と被控訴人間に意思表示の合致がある。」と主張するが,控訴人が駐車場施設を設置して看板に賃貸する意思があることを掲示しただけでは,本件契約の申込みの誘因があったというにとどまり,控訴人に本件契約の申込みの意思表示があるとはいえず,また,被控訴人が看板を見て駐車場内に駐車しただけでは被控訴人に本件契約の承諾の意思表示があるとはいえない。また,被控訴人の本件駐車場の利用形態からして,被控訴人に本件駐車場の駐車料金を支払う意思がないと認められることは上記認定のとおりである。したがって,控訴人の同主張は採用できない。
 3 以上によれば,控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。