産院で取り違えられ、実の親子と同様の生活をしていた兄に対して,両親の死後、遺産争いを直接の契機として、戸籍上の弟らが提起した親子関係不存在確認請求を権利の濫用とするに際し、深い同情を表明した事例(東京高判平成22年9月6日判タ1340号227頁) #蛇足

原審における鑑定の結果によれば、甲と乙との間には生物学的な父子関係が存在せず、控訴人と丙との間には生物学的な母子関係が存在しないことが認められる。
 そうであるのに、甲がいかにして乙・丙夫婦の実子として戸籍に記載され、養育されるに至ったのかは必ずしも明らかとはいえない。しかし、弁論の全趣旨によれば、甲の実母と丙が同じ病院で、同じ日又は極めて近接した日に出産し、出生後まもない甲と丙の産んだ子とが何らかの事情で取り違えられ、そのことに気付くことのないまま、乙・丙夫婦は控訴人を実子として出生届出をし、実子として養育するに至ったものと推認される。このことは驚くべき事態というべきであるが、乙・丙夫婦はもとより、控訴人もこれにつき何の責任もないのである。関係者にとっては、他に例をみることの極めて稀な悲劇であり、当裁判所としても、法的評価、判断は別として、まことに同情を禁じ得ない。