窃盗事件について中等少年院送致処分を是認した理由を平易に説明した事案(福岡高決平成24年6月25日家月64巻12号39頁)

福岡高等裁判所
平成24年(く)第93号
平成24年06月25日
少年 A(平成7.6.1)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
 君が提出した抗告申立書を読むと、抗告した理由の要点は、審判までは、家に帰りたくない、お父さんに会いたくないなどと思っていたけれど、審判が終わってから改めて考えてみると、これまで色々な人に迷惑や心配をかけてきたのは本当に申し訳ないと思っているし、これからは、お父さんの言うことを聞いて、家出や夜遊びをせず、悪い人とも付き合わずに、自分の夢に向かってしっかり勉強したいので、家に戻りたい(中等少年院に送致するという処分を考え直してほしい)、というものだと考えました。
 そこで、君の言い分も考えに入れた上で検討しましたが、私たち福岡高等裁判所も、君を中等少年院に送致することにした福岡家庭裁判所の判断は正しいものと考えましたので、その理由を伝えます。
 今回の非行は、家出中の君が、成人共犯者(B)と一緒に、ゲームセンターで、現金やキャッシュカードなどが入っている財布を盗んだというものです。
 これまでの君の行状をみてみると、小学校、中学校を通じて、勉強はあまり得意ではなかったようですし、多少の問題行動もあったようですが、家でも学校でも、大きく生活を乱すことはありませんでした。しかし、高校に入ると、直ぐに不良グループと一緒に遊ぶようになり、友人に暴力を振るったり、授業中に紙飛行機を飛ばしたりして2回も停学になり、最後には、学校にライターを持って行ったことが見つかって、1学期だけで退学してしまいました。その後君は、通信制の高校に行くようになったのですが、アルバイトも長続きせず、平成24年2月ころからは、たびたび家出をするなど、家に寄り付かなくなってしまいました。この間、補導されて児童相談所に一時保護されたり、親戚の家に引き取られたりして、君が家に戻ったこともあったのですが、直ぐにまた家出をしています。お父さんや親せき、警察官、児童相談所の先生方から、繰り返し注意され、指導を受けていたはずですが、君の乱れた生活は改まりませんでした。今回の非行は、家出中に知り合った成人共犯者と一緒に行った泥棒の事案です。
 君がこのように乱れた生活を送るようになった直接のきっかけは、君がお父さんの実の子どもではないことに気が付いてしまったことだろうと、私たちも思っています。君の受けたショックはかなり大きかったことでしょうから、家にいたくない、お父さんに会いたくないと思うのも、無理もないことなのかもしれません。しかし、鑑別所の先生や家庭裁判所調査官の意見を聞くと、君の非行の原因は、それだけではないのです。
 君は、もともと、自分の思いどおりに行動したいという気持ちが強くて、自分の気持ちや行動を抑えることがかなり難しい性格のようです。面白そう、楽しそうだと思うことのためであれば、君は、今回の非行もそうですが、社会のルールに違反することさえあるのです。また、君は、勉強が苦手なだけではなくて、物事を表面的・主観的にとらえがちで、深く考えたり、先々のことを考えたりするのがとても苦手です。ですから、君が社会の中で生活していく上では、いろいろな差し障りがあると思います。例えば、君は、何かとうるさく注意してくるお父さんやお祖父さんのことを、以前から快く思っていませんでしたし、君がお父さんの実の子どもではないと気付いてからは、お父さんやお祖父さんは、君がお母さんの連れ子だから厳しくするのだと勝手に思い込んでしまって、お父さんたちに反発する気持ちが前にも増して強くなり、それ以来お父さんたちの注意など聞かず、生活を急に乱し、結局今回の非行にまで至りました。しかし、お父さんやお祖父さんは、さきほど指摘したような君の問題点を分かっていたからこそ、少しでも良くなってもらいたいと考えて、君の自分勝手な考えや振る舞いなどを、あれこれと注意してくれていたのです。お父さんやお祖父さんは、君の将来のことを本当に心配していたからこそ、口うるさくしていたのですが、君はそれに気付くことができませんでした。
 そして、君は、一度思い込むと、なかなか考えを変えることができません。君は、鑑別所にいる間に、家庭裁判所調査官から、お父さんたちが君のことを本当に心配していることを聞いたはずですし、もう家出はしない、悪い人とは付き合わない、悪いことはしないと約束しました。しかし、審判のときには、家には帰りたくないし、家出するかもしれない、これからも好きにさせてほしい、困ったら盗みもするかもしれないなどと述べています。君は、家出中に覚えてしまった気ままな生活が楽しくて忘れられないようですし、本当のことを教えてくれなかったお父さんに対する反発心も簡単には消えないみたいです。
 抗告申立書の中で、君は、家に帰りたい、これからはお父さんの言うことを聞き、家出や夜遊びはしない、悪い人とも付き合わないなどと言っています。審判のときとはまったく違っていますが、これは、立ち直りに向けた君の気持ちが、まだまだ固まっていないことを示しているのだと思います。そうだとすると、君が今のまま家に戻れば、お父さんたちが君の立ち直りに協力してくれたとしても、君自身はそれをわずらわしく感じてしまって、やっぱり自由な生活がしたいと思って家出をしたり、悪い人と付き合ったりして、結局非行に関わってしまいかねないのです。
 君は、抗告申立書に書いた決意を確実なものにするためにも、少年院の中で規則正しい生活を送りながら、少年院の先生方から、君の能力に応じた丁寧な指導を受け、健全な生活習慣を身に付けるとともに、少なくとも、やって良いことと悪いことを自分で判断して、悪いことには決して関わらないという強い気持ちを持つ必要があります。また、時間はかかるかもしれませんが、少年院の先生方とも相談しながら、お父さんたちに対する気持ちを整理してみてください。
 このような理由から、君の言い分を聞き入れることはできないと考えました。
 そこで、少年法33条1項により、主文のとおり決定します。
 (裁判長裁判官 陶山博生 裁判官 溝國禎久 裁判官 中村光一