「田舎から夢見て上京したトマト娘たち」との迷惑メールのURLをクリックし、女性の画像をクリックしたら約4万円を請求された弁護士が、ワンクリック詐欺業者を訴え不法行為による損害賠償として30万円の賠償を勝ち取った事案(東京地判平成18年1月30日判時1939号52頁) #迷惑メール
(1) 原告は、東京都渋谷区に事務所を有する弁護士である。
(2) 被告は、複数のサイトを運営する者であり、その一つとして、平成一七年七月ころ、http://(略)のURLで、「略」というわいせつ写真画像閲覧サービスのサイト(以下「本件サイト」という。)の運営を開始した。
(3) 同年八月一五日、原告が業務用に使用しているパソコンに、被告の依頼を受けた第三者から電子メール(件名:「田舎から夢見て上京したトマト娘たち」)を送信され、原告はこれを開いた。
(4) 原告がその電子メールのメッセージ欄に記載されていた二つのURLのうちの一つであるhttp:/(略)をクリックしたところ、被告運営にかかる本件サイトがパソコンディスプレイ上に表示された。
(5) 原告は、同年八月一七日、被告に対して、原告が同月一五日に本件サイトのトップページに掲載されている女性の写真画像をクリックしたところ、原告のパソコンに対して、スパイウェアによるデータの窃取が行われ、数秒後に「入会登録が完了したので三日以内に三九〇〇〇円支払え」との催告ページが現れたとし、被告のスパイウェアの侵入によりコンピュータの使用を控えざるを得なくなり業務に支障が生ずるとともに悪質な架空請求により精神的苦痛を被ったなどとして、本訴を提起し、本件訴状は、同月二七日、被告に送達された。
(中略)
原告は、本件サイトにアクセスしたその日のうちに、送信された電子メールメッセージ、本件サイトのトップページ及び利用料金請求画面をプリントアウトし、本件サイトに記載されている利用料金の支払先口座について銀行照会して被告の氏名・住所を特定し、二日後には被告に対して本訴を提起しているほか、自己のパソコンについてコンピュータ技術者に依頼して点検を行っている事実が認められ、これらの原告の一連の行動は原告が主張するような不当請求を真実受けたことを窺わせるに十分なものがあると言うべきである(原告がかねてからワンクリック詐欺に対して訴訟を提起するなどの活動を行っていたことを窺わせる証拠はなく、今回の原告の行動も被告から送られたメールに端を発していることからすると、原告が意図的に訴訟を起こしたとは考えがたい。)。
(中略)
本件は、相手方に契約締結意思がないにもかかわらず、サイトの画面の写真画像をクリックしただけで、会員登録が終了したとして不当に利用料金を請求する、いわゆるワンクリック詐欺による不当請求事案であるが、その手口は、いきなり画面を暗転させ数字や文字を羅列させた後、個人情報取得終了との表示を行い、いかにも相手方のパソコン内にスパイウェアを侵入させ個人情報を窃取したかのような不安感を与えつつ、IPアドレスによってパソコンが特定でき、自宅や勤務先に直接請求するとともに、延滞料も請求することがあるなどと威圧的に請求を行うもので、しかも、羞恥心から泣き寝入りし、支払いに応じる者もあることを見込んでランダムに多数のメールを送りつけるというものであって、極めて悪質である。原告は、弁護士であり、かかる請求に対して支払義務のないことは理解してはいたが、自らのパソコンにスパイウェアを侵入され、またパソコン内の個人情報を窃取されたかもしれないとの懸念を抱き、パソコンの点検が済むまでの間パソコンの利用を差し控えたほか、自らの権利救済のために時間と費用をかけて本訴を提起しており、被告の行為により看過し難い精神的苦痛を負ったことは明らかである。本件に関する上記のような諸般の事情を総合勘案すると、本件における損害賠償金として三〇万円が相当であると思料する。
ということなので、「迷惑メール撃退のため、かねてから訴訟提起活動を行っていた」という事例にはこの裁判例の射程は及ばないかもしれません*1。
*1:この判決でこの点が問題となったのは、原告供述の信用性の文脈ですが
ワンクリック詐欺に勝った弁護士が教える「賢い法律の使い方、備え方」 / SAFETY JAPAN [インタビュー] / 日経BP社
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/80/index1.html
なんと、あの刑事弁護で高名な先生だったとは!
――あえて訴訟を起こして損害賠償請求された理由はどこにあるのでしょうか?
(略)
明らかに、子どもをターゲットにしようという意図が感じられたからです。ノウハウなんかも、なかなかないだろうなと思いましたので、自分でやるしかないと考えました。自分でやって違法性などをアピールすることで、警察なども動きやすくなるはずだという考えもありました。
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/80/index1.html
という問題意識に基づく真摯な提訴をしたといった経緯が語られています。