【1】一口に「憲法」といっても様々なものがあります。独裁国も憲法と名のついた法(形式的意味の憲法、4頁)を冠することはできるでしょう。また、どの機関がいかなる権力を持つのかを定める規範(固有の意味の憲法、4頁)は、古代ギリシア、ローマ等全ての時代に存在していました。 #立憲主義

【2】日本国憲法を含む「近代憲法」は、単に憲法という名前がついていたり、機関相互の関係が記載されていればいいのではなく、権力を制限して国民の権利を保障する(立憲主義)という思想に基づいており(立憲的意味の憲法、5頁)、ここに近代憲法の特徴があります。 #立憲主義

「立憲的意味の憲法」〔は〕、一八世紀末の近代市民革命期に主張された、専断的な権力を制限して、広く国民の権利を保障するという立憲主義の思想に基づく憲法である。
(略)
憲法の最もすぐれた特徴は、その立憲的意味にあると考えるべきである
芦部信喜憲法」(第5版)5頁

【3】近代的な憲法のベースには、自然権思想があります。つまり、人間は生まれながらにして自由かつ平等であり、生来の権利(自然権)を持っているものの、この自然権がより適切に守られるようにするため、契約(社会契約)を結び、政府に権力の行使を委任するという考えです(6頁)。 #立憲主義

〔中世的な貴族が王の権力を制限するという考えから〕近代的な憲法へ発展するためには(略)近代自然法ないし自然権(natural rights)の思想によって新たに基礎づけられる必要があった。この思想によれば、(1)人間は生まれながらにして自由かつ平等であり、生来の権利(自然権)をもっている、(2)その自然権を確実なものとするために社会契約(social contract)を結び、政府に権力の行使を委任する
芦部信喜憲法」(第5版)5頁

【4】人が生来的に自然権を持つという考えからは、憲法に定められる人権規定は、この自然権を取り込んで列挙したものであり、憲法の人権規定は、憲法の中核を構成する「根本規範」ということになります(10頁)。 #立憲主義

憲法は、何よりもまず、自由の基礎法である。(略)
このような自由の観念は、自然権の思想に基づく。この自然権を実定化した人権規定は、憲法の中核を構成する「根本規範」であり、この根本規範を支える核心的価値が人間の人格不可侵の原則(個人の尊厳の原則)である。
芦部信喜憲法」(第5版)10頁

【5】人権は、憲法の有無に関わらず、人間が人間であることに基づいて必ず持つもの(78頁)です。つまり、人は、その一人一人が人間として尊重されるために必要な権利を元から持ち(人間尊厳の原理、82頁)これを憲法が確認したと考えられます。 #立憲主義

人間が人間であることに基づいて論理必然的に享有する権利という人権の観念が一般的になった
(略)
基本的人権とは、人間が社会を構成する自律的な個人として自由と生存を確保し、その尊厳性を維持するため、それに必要な一定の権利が当然に人間に固有するものであることを前提として認め、そのように憲法以前に成立していると考えられる権利を憲法が実定法的な法的権利として確認したもの、と言うことができる。
芦部信喜憲法」(第5版)78頁〜82頁

【6】近代的憲法は、国家機関を定めてそこに権力を与えます(授権規範)が、その目的はあくまでも人権をより適切に保障するためであり、その意味で、授権規範は憲法の中核をなすものではないと言えます(10頁)。 #立憲主義

憲法は国家の機関を定め、それぞれの機関に国家作用を授権する。(略)
この組織規範・授権規範は憲法の中核をなすものではない。それは、より基本的な規範、すなわち自由の規範である人権規範に奉仕するものとして存在する。
芦部信喜憲法」(第5版)10頁

【7】自然権を持つ個人が政府に権力の行使を委任しているのですから、なぜある国家機関が権力を持てるのかといえば、それは国民がそれを与えたからとなります。そこで、授権規範である憲法を制定することを出来る力(憲法制定権力)を持つのは国民だということになるでしょう(11頁)。 #立憲主義

政治権力の究極の根拠も個人(すなわち国民)に存しなくてはならないから、憲法を実定化する主体は国民であり、国民が憲法制定権力の保持者であると考えられた
芦部信喜憲法」(第5版)11頁

【8】前述のように人権は人間の尊厳の原理から認められます。また、国民主権という統治構造も、一人一人の国民が人間として尊重されないのなら、国民一人一人に政治の決定権があるとはいえないでしょう。そこで、人間の尊厳から基本的人権と国民主権が派生する構造になっています(36頁)。 #立憲主義

国民主権(民主の原理)も、基本的人権(自由の原理)も、ともに「人間の尊厳」という最も基本的な原理に由来し、その二つが合して広義の民主主義を構成し、それが「人類普遍の原理」とされている
芦部信喜憲法」(第5版)36頁

【9】この構造のイメージとしては、基底に「個人の尊厳」があり、そこに支えられて人権と国民主権の原理が存在し、国民主権により人権をよりよく保障し、逆に人権が保障されることにより正しく民主的な政治運営ができるという不可分な結びつきを持つという関係になります(387頁)。 #立憲主義

人権(自由の原理)と(略)国民主権(民主の原理)が、ともに「個人の尊厳」の原理に支えられ不可分に結びつき合って共存の関係にあるのが、近代憲法の本質であり理念である
芦部信喜憲法」(第5版)387頁

【10】近代憲法は、国民が憲法を制定する(憲法制定権力)を持つことを前提に、自然権を法典で確認(成文化)したものとなります(386頁)。憲法を改正できるといっても憲法の根本規範というべき人権規定の基本原則まで改変することは許されないと考えられています(387頁)。 #立憲主義

近代憲法は(略)自然権の思想を、国民に「憲法を作る力」(制憲権)が存するという考え方に基づいて、成文化した法である
(略)
憲法の中にある「根本規範」というべき人権宣言の基本原則を改変することは、許されない
芦部信喜憲法」(第5版)386頁〜387頁

【終】もちろん、個別にはいろいろと疑問や批判もあるところであり、「疑問を容れる余地がない絶対的なもの」ではありません。ただ、まずは、日本国憲法の存立基盤とされる立憲主義がどのような考えを持つものとされているかを理解することが有益であると考えております。 #立憲主義