乳母車のバネを材料として素人の手により作られたものであつても、法律上は「日本刀」になり得るとされた事案(福岡高判昭和25年5月30日高刑特報9号148頁) #審神者向け判例

主文

 本件控訴を棄却する。
 当審における未決勾留日数中百日を本刑に算入する。
 当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。



理由

 被告人並びに弁護人下尾栄の控訴趣意の要旨は、
 原判決摘示の第一並びに第二の各玄米につき被告人はその賍物たる情を知らなかつたものであり、又第三の日本刀二振は素人の手で乳母車のバネを以て作られたもので全然人を殺傷する能力がなく同じく短刀匕首も玩具に等しい無力なものであつて、何れも銃砲等所持禁止令にいわゆる「刀劍類」と称するには余りに危險性に乏しく、原判決が被告人を懲役一年六月及び罰金五千円に処したのは量刑重きに失する、
 と言うのである。
 併し乍ら、原判決の挙示する各証拠殊に司法警察員(第一、二回)並びに檢察事務官(第一回)に対する被告人の各供述調書の供述記載等を綜合すれば、被告人は本件第一第二の各玄米が盜品であることを察知し乍ら之を運搬した事実を認定するに十分であり、又乳母車のバネを材料として素人の手により作られたものであつても日本刀たることを妨げるものではなく、原審が本件証第一号乃至第四号の各証拠物件をその領置目録記載の如く夫々匕首短刀或は日本刀として領置しているのについては何れもかゝる刀劍類に該当するものたることを確認した上でのことと認められるから、以上の点に関し原判決には事実誤認の違法はなく、尚記録について調査しても原判決の刑の量定を以て不当に重いものとは認め難い。

暴力行為等処罰に関する法律一条の二第一項が刀剣類を「用ヒテ」と規定しているのは、それらを本来の用法に従って使用した場合に限定する趣旨であり、日本刀による峰打ちはこれに該当しないとした事案(広島高判昭和46年1月12日判タ259号221頁) #審神者向け判例

ところで、暴力行為等処罰ニ関スル法律第一条ノ二第一項(以下単に本条項という)は、銃砲または刀剣類を用いて人の身体を傷害する行為が危険性の高い悪質な犯罪であるばかりでなく、現在この種の行為がいわゆる暴力団の構成員によつて多く犯されている実情にかんがみ、これを特別の犯罪類型として刑法第二〇四条所定の傷害罪より重く処罰しようとする趣旨で設けられた規定であり(第四六国会衆議院法務委員会議録第一五号、一、二頁参照)、右の立法趣旨や本条項が傷害の手段として使用される凶器の種類を「銃砲又ハ刀剣類「と限定していることなどに徴すると、本条項に銃砲または刀剣類を「用ヒテ」とあるのは、銃砲または刀剣類をその本来の用法に従つて使用した場合に限定する趣旨であり、銃砲にあつては弾丸を発射すること、刀剣類にあつては刃または切先で切りまたは突くことを意味するものと解するのが相当である。したがつて、たとえば拳銃の銃身で殴打しあるいは日本刀で峰打ちを加えるなど銃砲刀剣類の使用が本来の用法に従つたものといえない場合は本条項にいう「用ヒテ」にあたらない。また、右例示のように銃身で殴打しあるいは日本刀で峰打ちを加えようとしたところ、なんらかのはずみで弾丸が発射しあるいは刀の刃先で相手を切りつけるなど行為者の予期しない結果を招いたような場合には、銃砲刀剣類を本来の用法に従つて使用したと同じ外形的事実がみられるけれども、行為者に銃砲刀剣類を本来の用法に従つて使用する認識がもともとないのであるから、本条項に定める罪の故意を阻却し右の罪の成立が否定される。

登録を受けた日本刀を所有者のもとに返還するため携帯して行く途中、その日本刀を使用して脅迫罪を犯した場合であっても、日本刀の不法携帯罪は成立しないとした事案(大阪地判昭和35年10月17日下刑集2巻9・10号1287頁) #審神者向け判例

妻と口論となった被告人が、日本刀を取り出して自宅のふすまを突き刺したところ、意外にもふすまの背後に長男がいたため、その胸部に日本刀を突き刺させて死亡させたとして重過失致死罪で有罪とされた事案(神戸地判平成11年2月1日判時1671号161頁) #審神者向け判例

銃刀法に基づき登録が可能なのは美術品として文化財的価値を有する日本刀に限定され、サーベル等の登録ができなくても適法であるとした事案(最判平成2年2月1日民集44巻2号369頁) #審神者向け判例